☽ 4 At night 〜夜間〜


    ☽


 学校が終わり、日が暮れ、夜も更けた十時頃。

 ゆきは小さな機械を手にして、自分の部屋で月を見上げていた。

 もうそろそろ聖弥せいや出発・・しただろうか。ちょうどその時、ポケットの携帯端末が鳴り響いた。聖弥からの連絡だ、どうやら着いたらしい。――行かなければ。幸は握っていた「機械」を起動させる。

 手のひらで握れるくらいの大きさで、首から掛けられるようにひもが装着されているその「機械」には、縦に三つ並んでボタンが取り付けられていた。一つは起動用、二つ目は緊急時の連絡用、そして、もう一つは――。

 幸は目を閉じて、その三番目のボタンを押して、胸にその「機械」をいだいた。すぐに、ピピピという電子音が耳に入って来る。


 少し経って目を開けると、幸は別の場所へと転移・・していた。たどり着いた先は、人ひとりが余裕を持っていられる大きさの箱型カプセルの中だった。

 慣れた様子で、幸は右脇のボタンを押した。すると、彼女のすぐ右隣で扉がひとりでに開いた。その奥には真っ白なワイシャツと灰色のスカート、そして、茶色の革靴がそろえて置かれていた。幸はその一式――「制服・・」を手にすると、素早く着替え始めた。

 幸は「制服」に身を包むと、今度は左脇のボタンを押した。同じように、彼女の左隣が開く。そこには白い布で包まれた「何か」が保管されていて、幸は「それ」をそっと手にするとふところにしまった。そして、着替え終わると、幸は「機械」を首から下げ、正面のボタンを押してカプセルを出た。

 すぐ外には大きなロビーがあった。そこには幸と同じ制服――男性はズボンだが――を来た人々が大勢いて、その中心に複数ある一人用エレベーターに次々乗り込んでいった。

おはよう・・・・ゆき・・」「おはよう・・・・ございます」

 すれ違う人達に返事をしながら、幸もエレベーターに乗り込む。

 数秒後、上の階に到着した。たどり着いた先も円形のロビーになっていて、壁には無数の扉が設置されていた。

 迷わず、幸は十二時の方向の扉へと向かっていった。

「おはよう、ゆき」

「あ、おはようございます、リーダー」

 その途中、背が高く、灰色の髪と青い瞳をした、いかにも厳しそうな異国の男とすれ違う。

 リーダーと呼ばれたその男はにっこり笑うと、立ち止まった幸の頭を優しくなでた。怖そうに見えて、実は優しいところがあるのだ。……ちなみに、厳しいのは事実だ。

「朝はちょっと調子が悪かったとせい・・に聞いたが……今は大丈夫そうだな」

 幸は笑ってみせると、大きくうなずいた。リーダーの口にした「せい・・」というのは聖弥の仕事・・用の呼び名だった。

「じゃあ、早速やってもらおうかな。 今日は十二歳の少年の〔もの・・〕が標的ターゲットだ。 せいに頼もうと思ったんだが、一人じゃちょっと荷が合わないから、ゆきとコンビでやってもらうことにしたんだ」

 幸は「分かりました」とうなずいてみせると、リーダーに頭を下げてからまた歩き出した。そして、扉の向こうへと足を踏み入れた。

 そこには横になった複数のカプセルが円形に置かれていた。そのカプセルには制御が必要のため、複数の人々が壁際に設置されたパソコンを操作するのに行き来していた。

 ほとんどのカプセルが一つずつで孤立しているなか、一機だけ二つが繋がり隣同士になっているものがあった。そのすぐそばに聖弥が立っていた。幸は人々を避けながら、彼の元へ向かった。

 聖弥がカプセルの横に置かれたパネルを操作して、カプセルを開ける。

 カプセルは人が足を伸ばしてぎりぎり横になれるくらいの大きさだった。だが、それは二人用のため、狭いがダブルベッドのように何とか二人が寝られるようになっていた。

「行くぞ」

 幸が目の前にたどり着いたのを確認して、聖弥が声を掛けると、カプセルの中に入り、横になった。

 顔を少し赤らめると、幸はその隣に入る。……これだけはいつまで経っても慣れない。距離が近すぎるのでさすがに少し恥ずかしいのだ。

 早鐘を打とうとする心臓を何とかしずめ、幸は目を閉じ、意識を遠のかせていく。

 ――その時、ピピと電子音が鳴った。

 合図だ。幸はそのまま意識を手放した。

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