パレット探求記
赤ひげ
序章 プロローグ
第1話 旅立ちと翠
「やっぱり
帽子を被った少女の名は『エステル』。雪のように白い肌、精巧に作られたにんぎょうのような線の細い端正な顔立ちに、凛とした切れ長の目も相まって、実年齢よりもおとなびて見える。
白と黒のモノトーンを基調としたミニスカートとモックネックのノースリーブ。その上に羽織るは
普段は笑顔の一役を買っている両八重歯も今は鳴りを潜めて出番を伺っている。
「はい……一匹倒すのにここまで手間取るとは思っていませんでした……」
話しかけられた少女もまた足取りが重く、その足取りに見合った沈んだ声から落胆している様子がはっきりと伺えた。
共に歩く少女の名は『ルリーテ』。腰まで伸びた翠色の髪、同色の本来大きくつぶらな瞳はやや半眼気味に閉じがちだが、決して不機嫌というわけではない。また、その細身な体躯とは対照的に力強い意思を宿している。
柔らかそうな頬とあどけなさが残るその顔はエステルとは対照的に心なしか幼い印象を与える。やや胸元が寂しく感じるがそれもご愛嬌という所だろう。
そんな彼女の
「
「初めての相手とはいえ、
彼女は塗れた
「ううん! そんなこと言ったら……わたしだって
エステルもまた、戒めるように自身の失敗を口にする。
エステルは『
魔術主体ということで攻撃魔術を扱う
だが強力な魔術を行使することが可能な魔術師、パーティの命を預かる癒術士と比べるとどうしても見劣りしてしまうというのが実情である。
「やっぱり実戦で徽章術を使うにはどんな状況でも慌てず心を落ち着けないとだよね……はぁ……この調子じゃ
気落ちしながらも、自分を奮い立たせるよう
「十年前に約束された方たち……でしたよね?」
「うん……あの
あの日受け取った父の手紙。
そこには娘であるエステルと妻への愛情が詰め込まれていた。そして何よりも幼いエステルが父に言った、たわいのない言葉を覚えていてくれたことに涙が止まらなかった。
『お父さんがけんじゅつをするなら、あたしがきしょうじゅつで助けてあげるからね!』
子供の夢物語な約束を父は死の間際でさえ忘れず守れないことを詫びていた。
「あの時憧れるだけを止めたんだ……。絶対に
足取りの重さを忘れたように真っすぐな瞳が空へと向けられる。
『きみが章術士として
手紙を届けに来た少年がエステルの拙い決意を頑張って受け止め少女の小さな手を包み込むように握りしめる。
そして真っすぐに見つめると――
『――ううんっ! それはやだ!』
子供ならではの無邪気な笑みに似つかわぬ厳しい答えが返される。
『だって……一緒に冒険するなら……『仲間』になってほしいから……!』
顔を赤らめながら、その握りしめられた手を離さぬよう指先を絡める少女。
それを見た少年も思わず俯き小さな声で「う、うん。わかった……!」と照れながらもそう返事をすると、少女は可愛らしい八重歯を覗かせながら笑いかけていた。
『ふふふっ……なんだかとっても素敵な
少年の隣に佇んでいた美しい深紅の髪を結った女性も暖かい表情で喜びを頬に浮かべ賛同する。と同時に我慢できない、といったようにふたりを抱擁していた。
「約束覚えてるかな……? ほんとのこと言うと、覚えててくれるかちょっと不安。でもいいんだ! 会いに行くってあの時からずっと決めてたから!」
決意を固めた『あの日』を振り返り、そっと彼女は帽子を脱ぐ――それと同時に帽子の中でまとめていた髪が風に揺られなびいていく。
なびく髪に手櫛を通し帽子の中でまとめていた癖をほぐす。
女性ならばなんてこともない仕草だが、その少女の髪は穢れを知らぬとでも言うような美しい白色をしていた。
『
――精霊の加護を受けていない赤子が高確率で発症する。
――発症者は体内の
――それに伴い髪が白く、視界から色が消えていく。
――
――発症者から感染することはない。
数万を超える犠牲を生んだ病であり、現在では四散する者は極々わずかとなったが、それが治癒術と薬学の発展のおかげなのかさえ不明。完全な治療法は確立されておらず明確な原因も不明である。
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