第14話 俺ともう一人の俺が共闘!?
シュヴァルツロス症候群とは、簡単に言うと、推しのアイドルが結婚したことをファンが嘆くアレのことだ。
俺は魔王を倒したことによって、ナターシャと結ばれることが許された。
そのことを受け入れられなかった俺のガチ恋勢はめちゃくちゃ悲しんだ。
残酷な現実なんて見ない方がいい。夢の世界の俺に愛してもらおう。
そんな考え方が急速に広まり、現実を捨て、夢の世界の俺と疑似恋愛を始める女子たちが続出し、深刻な社会問題にまで発展したという。
もう俺の方が魔王なんかよりもよっぽどやばいやつに思えるけど、ツッコミ始めたらキリがないので置いておこう。
そんなシュヴァルツロス症候群だが、『推しの幸せを祝うのが真のファンだ! それに夢の中の殿下よりも、現実の殿下の方がずっとずっとカッコいい!』という考え方が広まったおかげで収束したと言われている。
記憶の保管の際、俺はその事件のことを一通り把握した。
だから知っている。
その呼びかけを行った発起人が、二頭身にデフォルメされた俺が描かれた服を着ている乙女たち――つまり、目の前にいる『シュヴァルツ親衛隊』だということを。
そんな誰よりも現実の俺の魅力を理解してくれていた乙女たちが、一斉にシュヴァルツロス症候群を引き起こして夢の世界の俺に救いを求めた。
果たしてこれは、ただの偶然なのだろうか。
『親衛隊たちは、意図的にシュヴァルツロス症候群を引き起こされた可能性がある。おそらくは何者かの手によって精神干渉系の魔法をかけられたのだろう』
俺も、もう一人の俺の考えに同意だ。
そして精神干渉系の魔法を解くには、相手の感情を強く刺激する必要がある。
SMプレイやら何やらを平然と要求してくるような人たちだ。
きっと一筋縄ではいかないだろう。
ただの散策のはずだったが、まさかこんな事態になるとはな……。
まぁ、嘆いていても仕方がない。
『とりあえず、親衛隊たちを正気に戻すぞ』
『……やめとけ。お前はこの場から逃げることだけを考えろ』
『彼女たちをこのまま放っておけというのか!? お前、それでもこの国の王子かよ!』
『俺は現実的な話をしているだけだ。今のお前は女への免疫が無さすぎる。そんなお前に何ができる? 少しは自分の身の程を弁えて行動しろ!』
ぐっ……!?
たしかにもう一人の俺の言う通りだ。
突然、恋人的な抱擁をされたら死ぬ。裸を見せられても死ぬ。
そんな弱点だらけのこの俺が、SMプレイ以上の刺激を彼女たちに与えることができるとは思えない。
だけど……
『……なぁもう一人の俺よ。親衛隊たちは、夢よりも現実の俺の方が魅力的だと言ってくれた。そんな彼女たちが今、夢と現実の狭間の中でもがき苦しんでいるんだ。俺は彼女たちのことをよく知らないけど、俺のことを推してくれたファンのことを見捨てるような男にはなりたくない! だから――協力してくれ!』
まさか俺から協力を申し込んでくるとは思いもしなかったのだろう。
もう一人の俺は驚いていた。
正直、俺もこんなやつに頼むのは嫌だ。
だけどつまらないプライドを拗らせても、彼女たちは救えない。
もう一人の俺は諦めたようにため息を吐いた。
『……言い出したら聞かない性格なのは、俺もお前も同じか。仕方がないから協力してやる。……だから見せつけてやれ! 夢なんかじゃ物足りなくなるくらいの現実をな!』
『ああ!』
こうして俺たちは、親衛隊の目を覚ますために手を組んだ。
そして、俺は覚悟を決めて親衛隊たちを見た。
――さぁ、かかって来い!
……そして俺は彼女たちにかけられていた魔法を解くことに成功した。
俺ともう一人の俺が共闘したら敵なんていない……などという熱い展開は一切ない。
勝因は俺の顔だ。
覚悟を決めた時の俺の顔は、あまりにかっこよすぎた。
そしてそれを見た親衛隊たちが、すさまじい衝撃を受けたことで魔法が解けたのだ。
かくして俺は、夢を超える現実を見せつけたのだった。
記憶を失くした俺の処方薬が許嫁の聖女だった件 〜女性にたじたじになった俺が、性格真逆のオレ様系男子を演じることになった件〜 萌えるゴミ @norunoru
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