オープニング
オープニング、まさに作品の命とも言えるもっとも重要なシーンです。カクヨムやweb漫画のようなクリックで簡単に見ることができて、簡単に去ることができる媒体では、最初のヒキが重要です。ここで引き止められないと、もう読者は二度とその先は読んでもらえません。
色々な始め方はできたと思います。例えば、ラピュタの説明。
「昔々、天空に浮かぶ城があった。そこでは高度な文明があり、天空から地上を支配していた。しかしある時……」
私たちがファンタジーなどを創作するとき、最初に説明をしたくなってしまいます。確かに初めて会った人には自己紹介するのが当然ですし、世界観や、今起こっている問題点など説明したくなります。しかし、後述しますが、この「説明」というものがくせもので、観ている方はあまり面白くないんです。ストーリー展開を動と静で表すなら、説明は静。止まっているものを見ても読者は面白くありません。
かといって、よく事情がわからない動きを見せられても、なんでこの人は逃げているのか、敵は誰なのか、武器はあるのか、何が使えるのか、これらがわからないと読者は置いていかれてしまいます。
この静であり面白く無い「説明」をどううまく取り込めるか、これが創作の肝と言っても過言ではありません。これがうまいとストーリーの動きが一気に加速します。
ではラピュタはどうだったでしょうか。
・薄暗い夜の闇に飛行物体が怪しげな音を立てる。それを遠くから狙う人相の悪い集団。
ここまで全く時代や背景など何も説明していません。しかし我々はつい見いってしまいます。これから何が起こるんだろう、何か事件が起こるんじゃないか、嵐の前の静けさ、そんな言葉が当てはまります。
説明がなくても入り込める設定で、最初に事件を起こす。ミステリーでよくある「冒頭に死体を置け」というセオリーと似ていますね。
説明をしていません、と言いながら、ちょっとずつ情報は入れているんです。空を飛ぶ技術は持っている時代、服も中世などではなく、銃や爆弾などもある時代だ、ということはわかります。
・食事を持ってくるが、食べない女の子。
これもうまいですね。肉付けの基本は、「普通だったらこうなるよな」という流れをそのまま逆にしてしまえばいいんです。つまり、食事を出されたら普通は食べるよな、そこを食べない。すると観ている方は「何かあったのかな?」と気になってしまいます。これがただ乗客のはずがないですから、何か重要な意味を持つのかもしれない、という予感へと繋がります。
こんなオープニングの中でも、ちょっとずつ今回の重要になるテーマ「飛行石」というキーワードを入れていきます(さりげない説明)。
シータが飛行船から落ちる時に、ドーラ婆さんがちゃんと「しまった、飛行石がっ」と叫ぶんですよね。普通だったらお宝が! とかでしょう。しかもよく考えると飛行石をシータが持っていると知っているのも不思議です。シータは直前にムスカから奪っており、そのシーンは観ていませんから。
でもそこはいいんです、ドーラに「飛行石が」と叫ばせることにより「説明」を入れ込んでいるわけです。ドーラの目的は一貫して「飛行石」なわけで、それを強調しているのです。
<オープニングの練習>※次のストーリー展開へ飛んでも構いません。
オープニングは他にどんなものが考えられるでしょうか。
1:パズーの仕事風景から始める
パズーの日常から始まる、というのもあるかもしれません。そして突然空から女の子が降ってくる。これでもそれなりにインパクトはあります。しかし日常風景で冒頭読者を惹きつける、というのが実はなかなか難しい。映画などは逆に途中で観客が消えることは少ないので入れやすいかもしれませんが、ワンクリック媒体(カクヨムやweb漫画)などでは逆に難易度が上がります。魅力的で鮮やかなやりとりが必要になります。
2:シータの日常から始める
シータが普通の生活を送っているところに、突然軍隊がやってくる。そして逃げながら、ついに捕まってしまう。こんなシーンから始めるという人もいるかもしれません。ただこれも何気ない日常、どんな人かもわからない少女の日常が始まっても、インパクトは低いので逆に難易度は上がるでしょう。ただ戦闘シーンなどがうまく描写できれば、これでも面白いかもしれません。
3:ムスカが密勅をうけ、何やら発見をし、動き出そうとする
あやしい男が政府からの密勅を受け、どうやらすごいことをしようとしている。
ムスカ「特別命令だ」
兵士「なんでしょう」
ムスカ「目的地はゴンドア」
兵士「なんであんな辺境の地へ?」
ムスカ「余計な口は挟まんでいい。目的はこの少女を、それと……。(飛行石)」
こんな命令を出し、ムスカがニヤリとしている冒頭も面白いかもしれません。これであればより怪しい雰囲気をだすといいでしょう。政府の偉い人からの命令なのに、捕まえるのはよくわからない一般少女? それと石? なんで? と思ってもらえれば冒頭としてはいいかもしれませんね。
どれが正解ということはないと思います。ただ、インパクトは必ず作ること、それと情報がなくても比較的入り込みやすい事件を起こすこと。これは重要視した方がよいでしょう。その際に時間軸は変えても構いません。よくクライマックスの1シーンを冒頭に持ってくるという手法もありますが、それでヒキが作れるならそれでも構いません。
ただあまりにヒキを作ろうとするあまり、オープニングに持ってきたクライマックスのシーンが、実際のクライマックスのシーンと微妙に設定が異なったりしてしまってる作品を時々見かけます。読者が忘れてくれていればいいですが、気付いてしまった時は「これ、脚色したな」とバレてしまい、白けてしまう可能性があるので注意です。
とにもかくにも宮崎監督チームはオープニングに「空中戦」を持ってきたわけです。それを考えるときっと、「このお話は『空』なんだぞ、そしてテンポもこんな感じ(後述しますが、空中ジェットコースター様の素早い展開)でやっていくんだぞ」と伝えたかったもしくはその想いが滲み出ていた、のかもしれません。
オープニングが終わり次の展開ですが、何ともこの作品のキーワードは「俊敏なテンポ」と言えるでしょう。息つく間もない空中ジェットコースターとでも言えるめくるめくスピード感あふれる展開が続きます。
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