第3話:バーの引きこもり
「***はいい子ね。***とは違うものね。だって、あなたは私を裏切らないでしょ?」
『……っ!!』
不快な声が夢だったと気付き、はぁ…っと深く息を吐く。
いつの間にか深い眠りに落ちていた。
隣にいたはずの郁人はいない。
おそらく仕事に行ったのだろう。
肌に張り付く髪をかきあげながら時間を確認し今日の予定を思い出す。
確か1件【仕事】があったはずだ。
不快な気持ちを洗い流すようにシャワーを浴び、準備を済ませ部屋を出た。
薄暗い部屋にタイピングの音とPCの起動音だけが響いている。
カタカタカタカタカタ…カタカタ……
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!!!バンッ!!!!!
静かな空間に突如として訪問者を知らせるけたたましい騒音と声が響く。
『ルーーーカーーーーちゃーーーーーーーん♡あーーーーそーーーーーーぼーーーーーーー♡♡♡』
『毎回言うけどさぁ、せめて僕が返事してから入ってきてくれない??』
『えぇ〜??結局入るのにそれ意味ある??』
『少なくとも僕には意味がある…まぁいいや、どうせ言っても無駄だし。はい、これが今回の【仕事】だよ。虐待だってさ。こういうの本当に理解出来ないよ。傷付けるなら最初から産まなければいい。
』
心底軽蔑したような顔をしながらルカと呼ばれた男が資料の束をジャックに渡す。ふとジャックの顔を見るとほんの一瞬、見間違いかと思うほどの間だが彼の目に仄暗い何かが宿っていた。
『はぁ〜〜〜い♡ありがと♡なるはやで処理しちゃうね♡これが終わったらルカちゃんの筆下ろしのお手伝いでもしてあげようか?』
『大きなお世話っ!!だっ!!お前はそういう事しか言えないのかよ!!もういいから!!郁人に昨日の【仕事】の報告にでも行きなよ!!バーで待ってるよ!!』
『もう、素直じゃないんだから〜wwwまぁ今日はこのくらいにしといてあげるよwwwじゃっありがとねぇ〜wwwあはっwww』
訪れた時と同じように騒がしく去っていく背中を見送り、再び訪れた静寂に安堵する。
ルカが直接関わる人間はとても少ない。居候先の主である郁人に空気の読めないジャック。2人が【仕事】の時の補佐としてもう1人バーの人間。基本的にはその3人だ。あとの【仕事】関係者は郁人を通すかメールやSNSなどを使って連絡を取るので直接、生身で関わることはないのだ。
『うるさい奴は消えた。ここからは僕の時間で僕の世界。人に関わるなんて煩わしいよ。誰も僕を理解出来ないし、僕も誰のことも理解しない。もう放っておいてよ……』
ボソボソと呟いた言葉は静かな部屋に溶けていった。
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