第7話 派手な仕事が舞い込んできた気がする

 次の日の昼間あたり。

 キャバレー・ミランダは昼間でも賑わう店。


 カジノエリアはまた閉じているがそれでも酒や料理、そして日勤のバニーガールに会いに来る客は多い。


 ゲオルはいつもどおり、用心棒をしていた。

 用心棒は朝から晩まで、まかないつき。


 給料のことも考えれば、充分すぎる待遇だ。

 タチの悪い客の相手もまったく苦ではない。

 殴れるし。


「……思った通り、早速お出ましか」


 昨晩の少女だ。

 今度はひとりでやって来た。


「ゲオルさん、ですか? えぇ、あそこで……」


「そう、ありがと」


「あーあ、こっちに来やがった」


 壁にもたれかかっていたゲオルに少女は仁王立ちしキッと睨み付ける。


「よう」


「昨日はよくもやってくれたわね……」


「お互い忘れられない夜だったな」


「く……その余裕な顔が気に入らない!」


「もー騒ぐなっての」


「アナタが変な言い方するからでしょう!」


「……はぁ、本題に入ろうか。俺を連行したいんだろうが俺の意見は変わらない」


「見てないって? そんなはずない」


「手柄をたてたい軍人さんも苦労するなぁ。でも見当外れだ。こういうのは地道にやるもんさ」


「だから今やってるじゃない」


「これが!? 冗談じゃねぇよったく」


 この少女の意思は固い。

 めんどくさいことにどこまで言っても平行線。


 彼女の瞳は真っ直ぐゲオルを捉えてはなさない。

 根負けしそうになったそのとき、妙案をおもいつく。


「そうだ嬢ちゃん、俺に依頼するってのはどうだ?」


「依頼? 用心棒のアナタに?」


「あれ、言ってなかったか? 俺は『なんでも屋っぽいの』をやってんだ。用心棒も仕事の一貫だ」


「なによっぽいのって。そんないい加減な仕事してるの? 怪しいわね」


「じゃあ、この話はなしだ。とっととお帰り」


「ちょ」


「この店嬢ちゃんにはまだ早いんじゃないの? 大人になってから来るんだな」


「はぁ、ミスラよ。ミスラ・ガバメント。階級は上位魔導衛士」


「よろしくミスラ。俺はゲオル・リヒター」


「馴れ馴れしい。……で、お話は聞いていただけるんでしょ?」

 

「今仕事中だしな」


「待てって言うの?」


「どうしてもってんなら、支配人に話を通せ」


 その後すぐにミスラは支配人と話を付け、時間を貰った。

 応接室で、彼女の話を聞く。


「さて、依頼を聞こうか」


「もちろん、今回の騒ぎの犯人探し」


「その様子じゃ目星もついてねぇようだな」


「いちからの捜査よ。誰がなんのためにそうしたのか。この街を脅かす悪党は絶対に許せない」


「報酬は?」


「……この額でどう? 私のポケットマネーだけど」


「ふっ、さすがに経費からは出せねぇか」


「で、どうなの? 受けてくれるのよね?」


「手柄はアンタに、報酬は俺に」


 コーヒーをイッキ飲みしてゲオルは笑う。

 その顔に仏頂面の彼女はどこか緊張の色が和らいでいた。


「もっと頼れる大人、いただろうによ」


「……」


「弱みを見せたくないってか」


「アナタには関係ない」


「仕事は明日からだ。じゃあこの辺で……」


 そのときだった。


「話は聞かせてもらいました!!」


「ティアリカ!? お前夜からじゃ」


「え! ちょ、なに!?」


「ゲオル、水臭いではありませんか。この私を差し置いて悪に立ち向かおうなど」


「いや、俺は仕事でやるの。今のお前はここの従業員で……って、お前どっからこの話聞いたんだ?」


「そんなことはどうでもいいのです!」


「よかぁねぇよ」


「……ティアリカ、どこかで……」


「お前仕事どうするんだよ」


「支配人に頼み込んでみます」


「いや、さすがに許しちゃくれねぇだろ」


「戦うバニーガールがどうだの言っていたのはあの方です」


「いや、それは……ハァ、言うだけ言ってみろよ」


 首をかしげるミスラの横でコンビで動くことが半ば決定する。


「まぁ、その、よろしくお願いします」

 

「えぇ、お任せください!」


「報酬山分けとか言わないよな?」


「え、言いますが?」


「おい!」


「ふふ、冗談ですよ。あ、でも食事に連れていってくれると嬉しいです」


「……ったく」


 ミスラが帰ったあと、ティアリカは支配人に直談判。

 しばらく考え込んだあと、オッケーを出したのだとか。


「あンの支配人……」


「また一緒に戦えますねゲオル」


「危ないと感じたらすぐ逃げろって言われたの忘れたか?」


「あら、私たちの経歴をもうお忘れ?」


「……アブねぇ女」


 かつてとのギャップに肩をすくめながらも、笑みがこぼれてしまう。


 次の日の夜、彼女は武装して現れた。

 白い魔術師衣装、そして黄金色の魔杖を持ってゲオルに笑顔を向ける。


「よかった。バニースーツで戦うなんて言ったらどうしようかと思った」


「支配人に勧められましたが、さすがに……」


「あンの支配人……」


「さぁ、今日はどうするんです!」


「情報収集」


「え?」


「あのな、話聞いてたんだろ? 犯人の目星もついてない。ド派手なアクションはそこからだ」


「むぅ。……しかし、犯人も妙なことをしますね」


「妙なこと?」


「えぇ、どうして魔物を解き放ったのでしょうか? そんなことをするより、爆弾や魔術を使ったほうがよっぽど被害が出るはずです」


「確かにな。俺たち以外にも戦闘能力のある奴はゴマンといたはず。あの程度の魔物で街に損害を出すにしちゃ悠長なやり方だ」


「となると、相手はテロリストや敵国のそれではない……?」


「それよりもっとヤバイの。ただ刺激が欲しいだけの異常者か」


「そんな……!」


「人が魔物に襲われてるのを見て興奮す変態ってのが、今のところの犯人像かな?」


「うぅ、となればまた……」


「かもな。おい、先日のほかにもっと人が賑わう場所はどこだ?」


「案内します」


 訪れたのは神殿前広場。

 この時間帯は市場と同様に人が多い。


 大都会の中にある神殿と言うだけあって、壁に刻まれるレリーフの数は多く、一面そのものが神話を語る1ページの役割を担っていた。


「まさにそびえ立つ歴史だな」


「えぇ、でも、もしここで騒ぎが起きれば……」


「そうなる前に食い止めるさ」


 この場に待機して数分経ったときだった。

 


 

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