第6話 今日はやけに女に絡まれる日だな……
「ティアリカを見てひと目でわかったよ。秘められた才能に、自然とでる不思議なオーラ……人とは違う特別なものを持ってる」
「ほぉ~。そこまでわかって、アンタはアイツと仲良くしてんのか」
「……そういう君も仲が良さそうだ。以前から知ってる風だけど」
「アンタはどう見る?」
ユリアスは答えず、また口に含んだ。
「清い関係を築いてきた仲、とだけ言っておくよ。この妙に美味い酒に誓って嘘はない」
そう言ってゲオルもひと口。
ユリアスは彼を睨んでいた。
ティアリカとの関係を疑っている。
「ティアリカと仲良くしてくれてありがとよ。アイツ、性格もお堅い部分あるし、ここへ来るまでずっと苦労しどおしだったろうからな。アンタみたいなのいてくれて助かるよ」
「……嘘は、言ってないようだね」
「つくかよ。アイツの大事なダチだ」
「嘘をついてたり、彼女を貶めようとしてたら……」
「その腰の裏に隠してる暗器。あと、袖下にもあるな」
「……ッ! なぜ……」
「あ、足の位置からして裾にも隠してるだろ。やり方がスケベだねぇ~」
「スケベは関係ないだろ」
「ほ~ん。色んな奴が従業員になってるって話だが、なるほど、元暗殺者か」
「……幻滅したかい?」
「他人の過去にいちいち幻滅してたらキリねぇぞ? ……ここは色んな過去を背負ってる奴が集まる街。それでも踏ん張って生きてる奴の街。そうだろ?」
「まったく、君と話してると調子狂うよ」
「ティアリカを守ろうと必死なってた自分が馬鹿みたいってか?」
「言ってくれるねぇ! 怪しい奴が彼女と仲良くしてたらそりゃ心配するに決まってるだろ?」
「怪しいだと!? あー……まぁ怪しいか。いや、でも、そこはもっとオブラートにだな」
「うさんくさいからヤダ」
「これだから……」
「ねぇゲオルさん。よかったら教えてくれるかな? ティアリカとどういう関係だったのか」
「……これは、いつか話せるときになったら話すってのでどうかな? アイツだって、自分の過去掘り返されたくないだろうからよ」
「わかった。ありがとう。ごめんね……変に疑っちゃってさ」
「ま、ちょっと飲もう。まかないはそれからいただくさ」
「いいよ。あと1杯だけね」
ユリアスと美味い酒を飲み、まかないを食べてゲオルは帰路につく。
(キワモノばっかだなこの店)
そんなことを思っていると、あの軍服たちが待ち構えていた。
「……俺に忘れ物か?」
「隊長がお前にぜひ会いたいと」
「隊長? 礼儀がなってねぇな。こんな夜にアポなしでしかも待ち伏せたぁ」
「あら、ずいぶんな言い草ね」
現れたのはこんな夜にも綺麗に映える紫水晶の瞳を持った美少女。
豊満に実った胸元は軍服からはみ出るようにその美しい乳白色を晒し、綺麗な谷間を作っている。
周囲の大人たちよりも小さいのに、その存在感は見て取れるほどに大きい。
それは彼女の魔力量のせいだろう。
ハッキリ言えば魔力量だけならティアリカと同等程度か。
「嬢ちゃん。キチンと大人を同伴させて来たのは褒めてやる」
「む、子供扱い?」
「こんな真夜中に男を待ち伏せ。イイ子ちゃんのすることじゃねぇがな」
「ア、アンタねぇ……私がそういういかがわしいことしそうに見える!?」
「どうあれ逆ナンはお断りだっつってんだ」
別の道から帰ろうとするも、彼女の手下たちに阻まれる。
「しつこいねぇ」
「ここで逃がすと思う? アナタの身柄を拘束させてもらうわ」
「おいおいおい! まるで犯人扱いだな!?」
「アナタはあの植物の魔物を倒したとき、見たはずなのなのよ。犯人の姿をね」
「まいっちゃうね。こんなことはつまみ食い探しのパーティー裁判以来だ」
「なにわけのわからないこと言ってんのよ。連行しなさい!」
「は、ハッ!!」
「あんときも俺がこうやって犯人扱いされたかな。んで、俺はこうやって抵抗したわけ」
相手の力みを利用しコントロールする投げ技や抑え技。
集団でかかるも誰ひとりとしてゲオルを捕えられない。
(な、なによこの体術……"お爺様"に匹敵するほどの動き……いや、センスでいえばもしかしたらそれ以上のッ!)
少女は駆ける。
旋風のように両足を振るい、ゲオルに襲い掛かった。
「だりゃああ!!」
「痛って! ……は、組手・軍靴術か。オシャレがなってねぇぞ」
特注らしい黒鉄色の軍靴。
足技というよりも高速で飛び交う鉄球をさばいているような気分だった。
さらに膝や肘技まで絡めてくるので始末が悪い。
「悪いがここまでだ。仕事上がりなんでな」
「こら待ちなさい!」
「今度はちゃんとアポとれよ! あ、メシ食いながらなら大歓迎だ!」
ゲオルを追いかけるも入り組んだ路へ入られ、逃げられてしまった。
「こんの……覚えてらっしゃい!!」
少女は顔を真っ赤にして地団駄を踏みながら、悔しさを夜の街に響かせる。
「ふぅ、有名になるの早すぎねぇか……? それとも、あの魔物を寄越した黒幕が有名過ぎたケースか」
「あら、ゲオル……?」
「ん、おう、ティアリカ。今帰りか? ずいぶん遊んだんだな」
「えぇ、中々に楽しかったです。……アナタは? ずいぶんお疲れのようですけど」
「ジョギングだよ」
「ふ~ん」
「それよりも、お前のところに誰か来なかったか?」
「誰かって?」
(ティアリカをマークしてないのか? 当面は俺狙いだろうが、いずれはコイツにも注目がいくだろうな)
犯人捜しをすれば、必ずゲオルやティアリカに行き着く。
そうすれば、このふたりがかつて魔王討伐のために命を張った者たちと気づく可能性は高い。
もっとも、教団の根回しがどこまで進んでいるかによるが。
「あの、ゲオル?」
「あぁすまん、考えごとしてた。……ティアリカ、もしかしたらあの植物の魔物の件で俺に軍服どもがまた来るかもしれない。お前は絶対に顔を出すな」
「また、って……え、もしかして事情聴取に来たと? ではなおさら私も出なくては」
「元聖女って知られたくないだろ。元聖女がバニーガールやってるなんて、いいゴシップに……」
「舐めないでください。それを恐れて問題に立ち向かうことはできません。もしも次に別の魔物が現れたら……」
「え、待てお前また戦う気か!?」
「当然です! 力ある者が力なき者を守らずしてどうするのです!」
「はぁ~、杞憂だったかな」
「ゲオル、もしもこの街に危機が迫っているというのなら、またともに戦いましょう!!」
張り切るティアリカをよそに、ゲオルは夜空を見上げた。
軍服やあの少女に完全に顔を覚えられている。
きっと明日にでもまた来るだろう。
(またあれの相手すんの? 修理代請求されるような沙汰にならなきゃいいなぁ)
それぞれ平和を思い浮かべながら、ふたり並んで帰路についた。
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