【ハロウィーンSS 2023Ver.】妖精さんのいたずら

 朝晩の冷え込みが進んできた頃、ある日のアイヒベルク邸ではシャルロッテがキッチンにいるラウラに話しかけていた。


「ラウラ、これは何?」

「あ、ハロウィーン用のカップケーキですよ」

「ハロウィーン?」


 シャルロッテはそう言えば国にそういった習慣があることを思い出す。

 そのために久々にキッチンに立っていたのか、と納得する。

 ラウラは鼻歌を歌いながら、カップケーキにチョコレートで可愛らしく飾りつけをしていく。


「ふふ、レオン様へあげるの?」

「えっ!?」


 ラウラは力が入りすぎて、可愛いハートを描いていたのに歪んでしまう。

 失敗だと落ち込むラウラに、ごめんなさいと少し申し訳なさそうに言った。


「いいえ、大丈夫ですよ。これ、よかったら召し上がりますか?」

「実は少し狙っていたの。いただきます」


 ラウラのお菓子が好きなシャルロッテはカップケーキを一つ取って一口かじった。

 いつものお菓子よりも甘さが控えめで、ふんわりと自然な甘みが広がる。

 シャルロッテはかじったカップケーキを見つめて不思議そうに見つめた。


「ラウラ、これ、かぼちゃ?」

「ええ、そうですよ! 美味しいですよね~」

「これ、ラウラが作ったのよね?」

「え? ええ……何かございましたか?」


 もしやまずかったんじゃ……と言った様子で慌てだしたラウラに、シャルロッテは首を振って否定する。


「違うの! あの、その……昔食べたカップケーキに味が似てて……」

「え……?」


 口元に手を当てて考え込むシャルロッテとそんな様子を見つめて何かに気づいたラウラ。

 そうしてラウラはテーブルにあった袋に包んで、オレンジのリボンでラッピングをする。

 シャルロッテは一瞬驚いた後、少し考え込んで彼女の意図を汲んだ。


「そうだったの、あの妖精さんは……」

「ええ、エルヴィン様ですよ。庭にエキザカムのお花があります。あの時のお花ですよ」

「──っ! ラウラ、そのカップケーキとお庭のお花一ついただいていい?」

「もちろんですよ」

「ありがとう!」


 そう言ってシャルロッテは庭の方へを足を向けた。

 そんな後ろ姿を見て、ラウラは嬉しそうに微笑んだ。



 エルヴィンの部屋の前へとやってきたシャルロッテの手には、先程のカップケーキとそれから庭で摘んだ花があった。

 扉の前でリボンに花を差し込むと、ノックをした。


 中からは「どうぞ」という声が聞こえてくる。

 シャルロッテは彼の様子を窺うように覗き込みながら入室した。


「おや、シャルロッテ。どうしたんだい?」

「エルヴィンさま、お仕事中ですか?」

「いや、今は読書中だよ。どうしたの?」


 そうしてエルヴィンが席を立ったのを見て、シャルロッテも彼に近づいていく。

 彼に見えないように背中に隠しながら、そっと近づくが、どうやらもう彼にはバレているらしい。


「トリックオアトリート」

「え?」


 エルヴィンは少し意地悪そうな顔をしながらシャルロッテにそう言う。

 彼女はとっさのことに反応できず、そんな様子を見越していたかのようにエルヴィンはシャルロッテを抱きしめた。


「捕まえた」

「あ、お、お菓子はあります!! あります!!」

「もう遅いよ」


 腕の中で必死に主張する彼女の手にあるものをエルヴィンは見つける。

 その包みと中身を見て、目を見開いた。


「それ……」

「あ、バレてしまいました……渡したくて」


 その言葉を聞いてエルヴィンは彼女を解放する。

 自由になったシャルロッテは、両手で大事に持ってお菓子を差し出す。


「妖精さんへのお返しですっ!」


 そうして彼に差し出す。

 エルヴィンは丁寧にそれを受け取ると、エキザカムの花を指で撫でる。

 そうしてテーブルにお菓子を置いたエルヴィンは、シャルロッテの手を引く。


「え?」


 動揺する彼女を連れていき、ソファに押し倒した。


「エルヴィンさまっ!?」


 両手を捕まえられて自由を奪われる。

 彼の足は逃がさないとばかりにシャルロッテの足の間に入り込む。


「可愛いシャルロッテ」

「んっ……くすぐった……」


 首元にかかった吐息に体をもぞもぞと動かす。

 けれども彼の動きはとまらず、その唇は首に、頬に、おでこに、と移っていく。


「私は妖精だからね、いたずらな妖精」

「お菓子、渡したの、に……」

「だーめ。時間切れ」


 甘く甘く何度も愛を受けるシャルロッテの中で、どんどん彼のことが好きな思いが溢れて来る。


「……して」

「ん?」


 エルヴィンは甘ったるい声で聞き返す。

 しかし彼女から返された言葉は、予想外のものだった。


「唇にして?」

「──っ!!」


 エルヴィンは一瞬目を見開き、嬉しそうに彼女の頬を撫でた。


「そんな欲しがりさんだったんだね」

「だめですか?」

「いや、私の好みだ」


 そう言ってエルヴィンはシャルロッテの唇に、自らの唇を重ねた──



*********

去年のハロウィーンSSの後日談となりました!


新連載『祝福の淡雪~結ばれない「運命」をあなたとなら壊したい~』

https://kakuyomu.jp/works/16817330665962506901

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