【特別SS②-2】心に秘めた愛~1988~

※こちらは2023年6月6日にFANBOXにて限定公開していたSSになります

 ぜひ【特別SS②】と合わせてお楽しみください



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 毎年欠かさず行っているこの墓参りも何度目だろうかとエルヴィンは心の中で思った。

 雨が降っている昼下がりの今、彼は傘をさして両親の墓前に花を添えていた。


「お前もいたのか」


 その声にエルヴィンは振り返ると、そこには幼馴染である第一王子クリストフが立っている。

 護衛もつけずに一人で傘をさしてエルヴィンの元に近寄ってきて、彼の隣でしゃがみ込んで祈った。

 ダリアの花を添えたクリストフはエルヴィンに向き直る。


「相変わらずマメだな」

「そういうお前もだ」

「俺はたまたま立ち寄っただけだ」


 そう口では言いつつも毎年違う花が墓前に供えられていることをエルヴィンは知っていた。

 供えられた花々は全てエルヴィンの母親が気に入って庭で可愛がっていた花で、それを知っているのはクリストフと彼女の夫くらいのものだ。


「また食べたいな、おば様の焼いたラズベリーパイ」

「ああ、あれは母親しか知らないレシピで、誰も再現できていない」

「他のどこの店のラズベリーパイを食べても、あの味を超えるものはないな」


 エルヴィンの母親の作るラズベリーパイはエルヴィンも好んで食べており、幼い頃は1ピースで足りずにホールで食べると言い出して家中を驚かせたものだ。

 それほど彼にとって思い出深い味であり、それは従兄弟でもあるクリストフも同じだった。


「これ、ヴェーデル伯爵家の調査報告書」

「ああ、助かる」


 こんなところで申し訳ございません、と墓前のほうに向かって頭を下げるクリストフ。

 エルヴィンは調書を軽くめくって中身を確認すると、ありがとうと礼を言う。


「やはりお前の睨んだ通り、あの家にはもう一人ご令嬢がいるようだな」

「そうか」


 クリストフは目の前にいる幼馴染の目を見て気づいた。


(ああ、その子のことが好きなのか)


 幼馴染の感なのか、エルヴィンの気持ちを察知した彼は仕事場に戻ると言いながら、最後にこう言った。


「おじ様とおば様はいつもお前のことを思ってたよ」


 そう言い残してクリストフは去って行った。


「いつも言葉が足りないな」


 自分の両親と同じくらい自分を思ってくれていると知っているエルヴィンは、右手をあげて去っていくクリストフにふっと笑いかけた。

 雨は次第に小雨になっていった──

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