【3巻発売記念SS①】誰よりも早く君に会いたくて

 各国国賓の来国によって、国家は忙しくしていた。

 そんな中第一王子であるクリストフは理由をつけてはなんとか自分自身の仕事を少なくしようとしていたのだが、それをエルヴィンは許さなかった。

 だが、それでも内政部分の多くをエルヴィンが代理でいくつか引き受けることとなり、王宮缶詰め状態で仕事をしていた。


 そんな彼を心配したシャルロッテは、王宮に食事を届けたり、顔を見せたりして彼の心労を少しでも和らげようとした。

 段々顔色も悪くなり、かなりほっそりとしたエルヴィンは、ようやく仕事から解放されてアイヒベルク邸へと戻ってたのだが……。


「エルヴィンさまっ!」

「ただいま、シャルロッテ」

「おかえりなさいませ、まずは少しお休みになってください」

「ああ、そうだね。でもそれよりも」


 そうして彼はシャルロッテの腕を引くと、そのまま自らの身体にすっぽりとおさめてしまう。

 嬉しい気持ちと彼がこの数日で過酷な仕事環境だったことを感じて、複雑な気持ちになる。


「ああ……会いたかった」

「昨日も会いに行きましたよ?」

「ダメ、足りない」


 なんだかいつもよりも駄々をこねる子供のように甘える彼の頭をそっと撫でる。

 そうして耳元でお願いをした。


「すみません、ここだと皆さんがみているので、部屋にいってもいいですか?」

「おや、いつからそんな大胆に……」

「そういうことではありません!」


 シャルロッテの叫びが廊下に響き渡り、それを聞いて微笑ましく使用人たちは笑っている。

 よーく見るとダイニングに繋がる廊下の柱から、そっと顔だけ出してニヤニヤして見ているラウラがいた。


(あれは、わかって見ているわね)


 ラウラは嬉しそうにしながら二人の再会を眺めていた──



「はあ……」


 さすがに体力の限界だったようで、部屋に入るや否やエルヴィンは倒れるようにベッドに横になる。


「エルヴィンさま、着替えはしなくていいのですか?」

「うん、あとで……」


 これはたぶん着替えないな、とシャルロッテは心の中で思った。

 彼がいつ帰ってきてもいいように夜着を用意して待っていたが、使うことはなさそうだ。


(でも、少し休んでいただいてまた着替えてもらいましょう)


 そう考えながら部屋のカーテンを少しだけ閉めて、眠りやすいように部屋を暗くした。

 すると、シャルロッテの後ろから低い声が聞こえてくる。


「なに、そんなに私とベッドに入りたいの?」

「え?」


 振り返る間もなくすぐさまベッドに引き込まれるシャルロッテは、そのまま彼の腕の中におさまる。

 頬にちゅっとされてシャルロッテはこそばゆくなって身体をもぞもぞを動かした。


「だめ、今日は諦めて」


 そう耳元で言われたシャルロッテはぞくりと身体を震わせる。

 低くて艶めかしい声が彼女の体中を駆け巡った。


(どうしましょう……!)


 久々の夫との触れ合いでシャルロッテ自身も熱くなってしまう。

 恥ずかしさと愛しさが脳内を駆け巡ってシャルロッテを混乱させる。


 しかし、彼女は彼の様子がおかしいことに気づく。


「すー……」

「え……?」


 そーっと振り返ると、エルヴィンはシャルロッテを抱えて首元に顔をうずめたまま寝ていた。

 目をつぶって寝息をたてる彼の様子に、シャルロッテは微笑みながら労う。


「お疲れ様でした、エルヴィンさま」


 そう言って彼の頬に優しく唇をつけると、起こさないように一緒に眠った──

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