【特別SS①】暖かい日差しに包まれて

 ある晴れた春の日、アイヒベルク家ではシャルロッテが暖かい陽気に包まれた廊下を歩いて、エルヴィンの仕事部屋へと向かっていた。

 その手には以前彼に借りた本──小さな女の子が主人公の童話が持たれており、シャルロッテはそれを大事そうに抱えている。


(これ、早く読み終えてしまったから、他にも同じような素敵な本があるか聞きたいのだけれど……)


 今日は仕事が休みだと聞いていたため、ランチから少し時間を空けて部屋を訪ねることにしてみた。

 シャルロッテは扉に手をかけてゆっくりと中を伺うと、部屋にはどこにもエルヴィンの姿がない。


(あれ……確かにラウラに部屋にいらっしゃるって聞いたのだけれど……)


 そうお思いながらもう少しだけ、というように扉の隙間を開いていくと、奥の方にあるソファにエルヴィンのふんわりとした黒髪が見えた。


(あっ! エルヴィンさまっ!)


 でもどうやら様子がおかしい。

 いつもであれば扉を開けるわずかな音でも気づいてこちらを見るのに、一向に振り向かない。

 シャルロッテは不思議に思いながら、ちょっと遠慮がちに部屋に入ると、扉を閉めてゆっくりとソファの正面側を覗き込むように近づいていく。


(あっ!)


 シャルロッテがソファの正面側に回り込んだ瞬間、珍しい光景が彼女の瞳に映り込んだ。


「すー……」


 なんと、そこには窓から差し込む暖かい日差しに身体を預けて目をつぶるエルヴィンの姿があった。

 日の光でキラキラと輝きふんわりとして温かみを持った黒髪が、さらっとちょっと傾いている顔に合わせて流れ落ちており、わずかに呼吸の音だけが聞こえる。

 何か考え事をしていたのか、腕を組みながら少し俯きがちに目を閉じているエルヴィンを見て、シャルロッテは思わず息を飲む。


(なんて綺麗な寝顔……)


 いつもの色気を漂わせた顔ではなくなんとも27歳の凛々しい顔ではなく、幼子のようにすやすやと眠る様子にシャルロッテは目を奪われる。


 すると、そんなシャルロッテの腕が突如引っ張られて、彼女の身体はそのままソファに眠る彼に寄せられる。


「──っ!!」


 持っていた本が音を立てて落ちるも、それを拾うことを許さないというようにエルヴィンは強くシャルロッテを抱きしめた。


「エルヴィン、さま?」

「すーー」


 どうやら彼は起きていないらしく、寝言で何か呟いている。


「愛しているよ、シャルロッテ」

「──っ!!」


 急な愛の告白にドキリとしたシャルロッテだったが、なんだか自分だけいつもドキドキさせられているのも悔しいと、反撃に出てみる。


 シャルロッテはすぐ近くで眠る夫の頬に自らの唇をちょんとつけると、彼が起きるかどうか気になってすぐさま様子を伺う。

 しかし、エルヴィンはまだすやすやと眠っており、起きる気配もしない。


 シャルロッテはその様子を見ていたずら心がでてきたのか、ゆっくりとそのまま彼の唇に自らの唇を合わせてみる。


「──っ!!!!!」


 すると、そのままエルヴィンの形のいい唇は動き、シャルロッテの唇に合わせて愛を注ぐ。


「ふふ、自分からしてくるなんていつからそんな大胆になったんだい?」


 まさか起きてたの?!なんていうシャルロッテの言葉は彼の唇に閉じ込められる。


 暖かい春の陽気が二人を優しく包み込んでいた──

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