【書籍配信記念SS】麗らかな、ある一日~後編~

「ラウラ、こんな感じ?」

「シャルロッテ様、上手です!」


 キッチンでシャルロッテとラウラがお花見で食べる料理を用意している。

 お菓子作りは何度かラウラに教わりながらやったことのあるシャルロッテだったが、本格的な料理というのは初めてで苦戦しながら作っていく。

 もともとアイヒベルク家の使用人の数は一般的な貴族の家よりも少なかったため、二人で全員分の料理を作ることができた。


「できましたね!」


 料理は外で食べやすいようにサンドウィッチなどの軽食が中心で、二人は綺麗にカゴにそれらを詰めていくと、そのまま庭園のほうへと持っていく。



 庭園ではすでにエルヴィンやレオンらがテーブルの搬出をおこなっており、立派な会場の設営が完成されていた。


「みなさ~ん! できましたよ~!」

「おお、うまそうだな!!」


 テーブルにシャルロッテとラウラはカゴをいくつか置いていく。

 そして傍らにはビールや紅茶などが置かれており、各々好きなものを取る。


「シャルロッテ、君が今日は主催だからご挨拶の練習をしてみるかい?」

「え?! 私がでしょうか?! うまく務まりますでしょうか……」


 エルヴィンは不安がるシャルロッテの肩に優しく手を置いて「大丈夫」と囁く。

 シャルロッテは皆に見つめられて顔を少し赤らめると、ちょっと遠慮がちに紅茶を持って挨拶を始めた。


「えっと……皆様、今日はお花見に参加してくださり、ありがとうございます! あの、皆さんにはいつもお世話になっていて、感謝してしきれないほどです。その、まだまだ未熟な私ですが、立派なエルヴィンさまの妻としてがんばります。今日はたくさん楽しんでくださいね! それでは……」

「「「かんぱーい」」」


 シャルロッテの挨拶を皮切りに皆それぞれ乾杯して飲み物を飲んで、そして二人が作った料理をつまんでは談笑している。


「えるヴィんさま~もっと飲みましょ~よ~」

「レオン、飲みすぎじゃないかい?」

「レオン様っ! エルヴィン様に絡みすぎです!!!」

「なんだよラウラ! 嫉妬か?! しっとか?!」

「違います!!!」


 エルヴィンに絡み酒をするレオンを必死に止めるラウラだが、全くいうことをきかないレオンに喝を入れている。


「アイヒベルク家もシャルロッテ様がいらっしゃってまた一層華やかになったな~」

「俺たちは幸せです! お二人に仕えることができて」

「私も皆さんと過ごすことができて幸せです! これからよろしくお願いします!」


 シャルロッテは執事の皆に深々とお辞儀をすると、にこりと笑って紅茶を彼らに注いでいる。

 そんな様子を見たエルヴィンは、抱き着くレオンを引きはがして執事に彼のことを任せると、足早にシャルロッテの隣へと向かった。


「エルヴィンさまっ?!」

「私以外の男とそんな親しげにして、許せないね」


 エルヴィンはシャルロッテの肩を抱き寄せて執事たちと距離を取らせると、シャルロッテの頬に唇をつけてまわりを牽制する。


「あ~えるヴぃんさまがしっとしてるぅ~」

「もうレオン様、水を飲んでください!」


 めっぽう酒に弱いレオンはもうすでにぐでんぐでん。

 それでも主人に遠くから大声で野次を送る。


「なんだ、皆で楽しそうなことをしているじゃないか」


 そんな声を響かせながらやってきたのは、第一王子でありエルヴィンの従兄弟であるクリストフだった。


「お前は呼んでいない」

「そんなこと言わないでいいじゃないか、エル。あ、シャルロッテ嬢久しぶりだね!」

「ようこそいらっしゃいました! 紅茶にしますか? ビールにしますか?」

「俺も一緒にいいのかい?」


 そんな会話をしながらシャルロッテからビールを受け取ると、一口飲む。

 なんとも麗しい金髪がきらめいている。



 その時、庭園に強く風が吹いて庭園の花びらが舞い上がった。

 皆その美しい光景に目を奪われて、そしてうっとりと眺めている。

 様々な色が太陽の光を浴びて、まるで宝石のように皆の瞳に映されていた。


(ああ、なんて幸せなんでしょう)


 心の中でそう思ったシャルロッテは、隣にいるエルヴィンの端正で美しい顔を見つめて、そして彼の耳元で囁く。


「私は、エルヴィンさまといられることが一番幸せです」


「──っ!!」


 シャルロッテの真っすぐな愛のささやきは、エルヴィンの心に深く刻まれた──

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