【書籍配信記念SS】麗らかな、ある一日~前編~

 暖かい春の日差しが眩しくて、シャルロッテは思わずカーテンを開けて目を細める。

 凍えるような寒さの時期が過ぎ去って、小鳥のさえずりも耳に入って来る。


「いい天気ね」


 メイドであるラウラが毎日シャルロッテの身支度などを担当しているが、シャルロッテは自分で起きて準備を進めることが多いため、あとは髪を結ってもらうだけ、という状態にになっている場合が多い。

 今日もシャルロッテは自分で起床し、そしてクローゼットにある普段着のドレスを選ぶ。

 最初は遠慮がちに3着ほどだったドレスも、今は彼の夫であるエルヴィンとのデートで行く洋服屋で少しずつ買うことが増え、今では7着ほどになっていた。

 だが、最初にあった2着以外はあまり高級なものではなく、とても質素な素材を使ったドレスになっている。

 そんなドレスを大切に大切に着るのが、彼女──シャルロッテの楽しみでもあった。


 ドレスを着終わった頃に部屋をノックする音が聞こえて、シャルロッテは返事をする。


「はい!」

「シャルロッテ様、ラウラでございます」


 そう言いながら部屋に入って来るラウラ。


「本日も早いですね」

「温かいから起きやすくなったわね!」

「そうですね~」


 シャルロッテが椅子に座るとラウラがその後ろに立って、髪を梳いていく。

 茶色く長い髪に日差しが当たって、シャルロッテはまた寝てしまいそうになる。


「シャルロッテ様、今日はエルヴィン様がお仕事お休みっておっしゃってましたよ」

「本当?! ではぜひお話をたくさんしたいわ!」

「それはもうエルヴィン様も快く引き受けてくださいますよ!」


 髪を梳かれながらシャルロッテの頭にふと一つの案が思い浮かんだ。


「ねえ、ラウラ」

「はい、なんでしょうか」

「今日キッチン開いてる?」

「ええ、もちろんいつでも使えますが……どうかなさいましたか?」

「ふふ、朝食の時にエルヴィンさまに聞いてみる」

「?」


 ラウラは不思議に思いながら髪を梳き終わったことをシャルロッテに告げる。



 シャルロッテがダイニングに向かうと、すでにエルヴィンが席についており、にこやかな表情で迎え入れる。


「おはようございます! お待たせしてしまいすみません!」

「おはよう。大丈夫だよ、今日は早く目が覚めたんだ」


 そう言葉を交わしながらシャルロッテが席に着くと、ラウラが彼女の食事をテーブルに並べる。

 全て並べ終わると、お辞儀をして後ろに下がるラウラ。

 それを合図に二人は食べ始めたのだが、早々にシャルロッテがエルヴィンに話しかける。


「エルヴィンさま、よかったら今日お花見をしませんか?」

「お花見?」

「はい! ある国では春にそとの庭園などで皆で食事をしながらお花を見て楽しむそうなんです」

「へえ、それは興味深いね」

「ぜひエルヴィンさまと、そしてお屋敷の皆さんとそのお花見をしたいのですが、どうでしょうか?」


 その言葉に「え、わたくしたちもでしょうか?!」と驚いた様子でラウラが返事をすると、シャルロッテはもちろんといった様子で答える。


 かくして、アイヒベルク公爵家のお花見は始まった──

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