最終話 本当の夫婦になりたくて

 シャルロッテとエルヴィンはヴェーデル伯爵邸から帰ってきて、エルヴィンの自室にいた。


「ごめんね、嫌な思いをさせただろう」

「いいえ、私は平気です」

「失望したんじゃないか? 『冷血公爵』の暴虐ぶりに」

「何を言ってるんですか、私は尊敬しましたよ。だって、国を支える立派なお仕事なんですから。国民のため、みんなのために悪役になるあなたはかっこいいです」


 そういうシャルロッテをエルヴィンはたまらず抱きしめる。


「本当に……本当に君が妻で良かった」

「それは私のセリフです。あなたが夫で、傍にいてくれてほんとうによかった」


 二人は強くお互いを求めるように抱きしめる。

 そのぬくもりが心地よいシャルロッテは、勇気を出してエルヴィンに告げた。


「エルヴィン様」

「なんだい?」



「私を妻にしてくださいませ」


「──っ!」


 その覚悟を持った目、そしてその奥にはエルヴィンへの深い愛情が見える。


「形式だけの妻じゃなく、本当の、本当のエルヴィン様の妻にしてください」


 エルヴィンはその言葉を聞いて少しため息をついた。

 シャルロッテはエルヴィンの様子を見て不安になる。


(やっぱり私じゃダメなのかしら……)


 悲しさで涙が流れそうになるその時、エルヴィンの唇がシャルロッテの唇を捕らえた。


「──っ!」


 深く深く交わったそれは、二人の熱でどんどん熱くなる。


「私の答えだ。というのは、ちょっとずるいね。シャルロッテ」

「はい」

「私はシャルロッテを愛しているよ」

「──っ! 私もです、エルヴィン様」


 そういってエルヴィンの胸に飛び込んで顔をうずめるシャルロッテ。

 その可愛らしくて素直な愛情表現に、エルヴィンは愛しい気持ちが溢れて止まらない。

 シャルロッテの髪を優しくなで、首元に唇をつける。


 どれほどの長い時間そうしていたのだろうか。

 二人は何度も何度もお互いを確かめ合うように愛を囁き合った。





◇◆◇





 生まれると災いをもたらすと信じられている「金色の目」。

 一族に生まれた金色の目を持つ者の多くの命が冷たく暗い牢の中で失われた。

 そして彼女もまた、外に追い出されて家族に道具のように使われた。


 しかし、伝承はこれだけではない。

 「金色の目」を持つ者が18歳まで生きていた場合、今度は「神の祝福」を受ける証へと変化する。


 この伝承は最後の「金色の目」を持つ少女の幸せを見届けて人々の記憶から消えていった。


 少女の「人生で一番幸せになる日」と共に──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る