第14話 【番外編】あるメイドの日記
私はアイヒベルク公爵家にお仕えして約1年になる新人メイドになります。
『冷血公爵』と恐れられているエルヴィン様のもとでお仕えするのは不安でしたが、花嫁修行も兼ねてお世話になることになったのが1年前です。
しかし実際のエルヴィン様はとてもお優しく、メイドや執事にも分け隔てなく接してくださる紳士なお方でした。
そして私は5つ年上のラウラさんに聞いてみたのです。
「エルヴィン様ってご婚約なさらないんでしょうか?」
「ああ、まだお仕事に夢中なのだそうですよ。クリストフ様もそのあたりしつこく言っているそうですが、全く相手になさらないのだとか」
「へえ~」
あんなに見目麗しいお方がなぜご婚約されないのか。
その当時は不思議で仕方がありませんでした。
ところがある日、エルヴィン様が側近のレオン様にお話しているところを立ち聞きしてしまったのです。
「今すぐにヴェーデル伯爵令嬢について調べてはくれないだろうか」
「ヴェーデル伯爵令嬢といいますと、エミーリア様でしょうか?」
「いや、あの家にはもう一人ご令嬢がいらっしゃるはずだ、その子を探して調べてほしい」
「何か理由があるご令嬢というわけですね。かしこまりました」
(ご令嬢に興味をもっていらっしゃる。まさか、一目惚れとか……? いえ、エルヴィン様に限ってそれは……)
そういってエルヴィン様を観察していたら、その手には大事そうにどなたかからの手紙を持っておられたのです。
(まさか、文通?!)
そうして私はラウラさんに話に行ったのです。
「だから、手紙をそれはそれは大事そうに持っていらっしゃったのです!!」
「う~ん、執務のお手紙じゃないかしら?」
「絶対あり得ません! だってエルヴィン様その手紙をみてとっても優しく微笑んでいらっしゃったのですよ!!」
「まあ! それは本当にどこかのご令嬢からのお手紙なんじゃない?」
「そうですよね!?」
その日から私はエルヴィン様を詳しく観察することに決めたのです。
ラウラさんと役割分担しながら、常にエルヴィン様の動向をチェックしました。
そして、ついにその時がきたのです。
「みんな、今日は伝えたいことがある」
家中のメイドと執事を集めてエルヴィン様はお話をされました。
「私は妻を娶ることにした」
その言葉にまわりがざわざわとする。
当たり前ですわ、あれだけ渋っていたエルヴィン様が自ら宣言されるのですから。
どんなご令嬢なのかしら。
「相手はヴェーデル伯爵令嬢だ。しかし、家族に虐げられてまともな生活をさせてもらえていない。ゆえに、おそらくテーブルマナーや挨拶、礼儀など不十分なことが考えられる。それでうちに来た時にみんなに失礼な態度をとることもあるだろう」
(なんだそれ……? なぜそんなご令嬢をエルヴィン様が?)
「だが、彼女はとても心清い子で純真なんだ。だから笑わず、そして焦らせずにゆっくりこの家に慣れさせてあげてほしい。私からのお願いだ」
そういってエルヴィン様はメイドや執事に向かってなんと頭を下げたのです。
隣にいたレオン様やラウラさんも慌ててエルヴィン様にお顔をあげてもらうように促しています。
「今日、その子がうちにやってくる。きっとみんなも彼女、シャルロッテの優しい心に触れると思う」
そういってお話をしたあと、自室に戻られました。
夕方頃、予告通り彼女はいらっしゃいました。
とても可憐で繊細なご令嬢、こんな子がどうして?と思っていた時、彼女のたどたどしくも礼を尽くそうとする様子を見て私の考えは間違っていたと気づきました。
彼女を見つめるエルヴィン様の目も、あんなに優しく愛おしく見つめる目を見たことがありません。
シャルロッテ様は何か輝く素晴らしいものを持っていて、みんなを幸せにする。
そんな風にこの時思わずにはいられませんでした──
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