第13話 待ち遠しい再会
エルヴィンが長期の仕事に出て家に戻らなくなった日から5日が経った。
シャルロッテはあれから毎日夜遅くまで起きて、今日は帰ってくるのではないか?と思いながら玄関周りをブラブラしている。
(今日も無理かしらね)
そう思って邸宅の中に入ろうとした時、シャルロッテの後ろから馬車の車輪の音が聞こえてきた。
「──っ!」
まさか、と思い後ろを振り返ると沿道の向こう側から明かりのついた馬車が近づいてくる。
(エルヴィン様……?)
やがて馬車が邸宅の前で停車すると、御者がドアを開けて中から人がでてくる。
降りてくる人物の漆黒の髪がシャルロッテの目に入った。
「エルヴィン様っ!」
「シャルロッテ?」
暗闇の中、シャルロッテは馬車のもとへと駆けていく。
馬車から降りたエルヴィンに思い切って抱き着いた。
「──っ!」
「お会いしたかったです! エルヴィン様」
「私もだよ、シャルロッテ」
そういって二人は会えなかった分を補充するかのように深く抱きしめ合う。
馬車から降りたレオンは甘い状況に呆れながらも、なんだかんだ微笑ましく見守っていた。
「それではゆっくりお休みくださいませ」
そういってレオンはエルヴィンの部屋のドアをゆっくりと閉めて退室した。
「シャルロッテ、ごめんね寂しい思いをさせて」
「いいえ、無事でしたらそれでよいのです。でも、ちょっと寂しかったです」
「ちょっと」と言って少し遠慮がちに寂しさを伝えたシャルロッテの嘘に、エルヴィンはすぐ気づいた。
エルヴィンはシャルロッテに近づくと、そっと背中に腕を回す。
それを受け入れるようにシャルロッテもエルヴィンの腰に腕を回して、愛情を伝えた。
すると、エルヴィンはシャルロッテの腕を強く引っ張るとそのままベッドへと押し倒す。
「エルヴィン様っ?!」
「会いたかった……ずっとシャルロッテの声が聴きたくて」
ベッドへと仰向けになるシャルロッテの右手を、エルヴィンの左手がおさえる。
右手でシャルロッテの流れるような髪を梳くとそのまま頬へとすべらせた。
細く長い指先がシャルロッテの唇をなぞる。
「可愛いシャルロッテ、私は寂しかったよ」
「私もです。ずっとエルヴィン様の声が聴きたくて毎日眠れませんでした」
「そう、眠れないのはよくないね」
「心臓も苦しくて辛く、エルヴィン様のことを思うとなんだか呼吸が乱れて苦しいのです。病気になってしまったのかもしれません」
「え……?」
シャルロッテは素直に自分の症状を伝えると、エルヴィンは驚いた表情をしたのち、ふと笑顔を見せた。
「どうかなさいましたか?」
「いや、シャルロッテ。私は嬉しいんだ、今。なぜだかわかるかい?」
「……ごめんなさい、わかりません」
申し訳なさそうにしゅんとした表情を見せるシャルロッテに、エルヴィンはもう一度頬をなでて優しく言葉を紡ぐ。
「いいかい? シャルロッテのそれはね病気じゃなくて『恋』というものだよ」
「恋?」
「ああ、シャルロッテは私に恋をしているんだ」
「──っ! 私がエルヴィン様に……」
シャルロッテには思い当たる節がいくつもあった。
エルヴィンといるといつも心地よく、傍にいないと落ち着かない。
そして、抱きしめられると鼓動が速くなって苦しくなる。
(これが……恋……)
「シャルロッテ、私も君のことが好きだよ」
「嬉しいです、本当に。ありがとうございます」
そうしてエルヴィンはシャルロッテの首元に顔をうずめる。
「シャルロッテ、愛してる」
しかし、その言葉の返答が返ってくることはなく代わりに静かな寝息が聞こえてきた。
「シャルロッテ?」
エルヴィンがよく見ると、シャルロッテは安心したように穏やかな表情で眠りについていた。
「これはなんというか、警戒されていないというか、私の理性を試しているのか」
そういって眠るシャルロッテのおでこに優しく唇をつけると、ゆっくりとエルヴィンもその横で眠った──
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