第49話 翌朝
昨晩の要さんは、出張帰りだと思えないくらいの元気さで全然私を離してくれなかった。
でも、要さんに愛されて充足はある。
弱気になりすぎていたのは要さんが足りていなかったせいもあるのかもしれない。
要さんといるということは、社会に無条件で受け入れられる存在でなくなるということだ。でも、離れたくないのなら、私も強くならないといけないのだろうと考えるようにはなった。
まだ全然答えは出せてないけど、それでも要さんが好きで一緒にいたい気持ちは嘘じゃない。強くなるだけで乗り越えられるのかも分かっていない。
でも、要さんを無視して答えは出したくない。
浅く寝たり起きたりを繰り返しながら、壁掛けの時計を見ると7時に近くなっていて、私は体を起こす。
「要さん、そろそろ起きないと会社に遅れますよ」
「……紗来ちゃん。わたし代休なんだ」
そういえば要さんは土曜も日曜も仕事をしていたので8日間働きづめだった。それなのに昨晩は手加減してくれなかったけど。
「じゃあ、私は会社に行くので、要さんはゆっくり寝てください」
「紗来ちゃんも休んじゃえばいいんじゃない?」
要さんの腕に強引に引き寄せられて、要さんの素肌の上に落とされる。
「もうっ……要さん!」
「体の不調と同じで、心を癒やす時間は必要でしょう?」
昨日別れ際、国仲さんに言われた休んでもいい、という言葉が思い起こされる。
今の私は心を休めるための休息が必要だという意味で国仲さんは言ってくれていたのかもしれない。
「要さんを喜ばせるだけなんですけど」
「だめ?」
消化しないと消えてしまう有給休暇も残っているし、と理由をつけて、私は国仲さんに休暇連絡を入れた。
ずる休みっぽくてどきどきするけど、要さんは昨日あれだけしたのに、まだ誘ってくる。
「眠いので、1回だけですからね」
お昼前まで要さんの腕の中で眠ってしまって、家にあるもので朝食兼昼食を取っていたところで、スマートフォンの電源を落としたままであることを思い出す。
電源を入れると、メッセージが100件以上も溜まっていた。要さん以外のものも多少はあるとしても、ほぼ要さんからだろう。
「要さん、どれだけメッセージを送ったんですか!?」
「だって、紗来ちゃんから返事がなかったから、ほんとに心配したんだもん」
のほほんと要さんは答えるけど、寝起きの要さんは素肌に長袖のシャツだけを軽く羽織って、隙間から見える白い肌の色気がすごい。
「それは私も悪いですけど……」
「何もなかったわけじゃなかったから、飛んで来て正解だったけどね」
「有り難うございます。実は国仲さんも私の様子がおかしいって心配してくれて、昨日の夜に少し話を聞いてもらったんです。それで整理できたこともあって、それじゃなかったら、私は要さんから逃げ出していたかもしれません。どう顔を会わせればいいのか全然分からなくて逃げてました」
「そっかぁ。今度お礼言っておくよ。叶野さんと国仲さんのお陰で今紗来ちゃんといられるんだしね」
要さん以外に相談できる人がいてくれることが、こんなに支えに思えたことはなかった。それが100人の知り合いの中で2人だけだとしても心強い。
要さんはどうなんだろうか。
「要さんって、ご家族にレズビアンだって打ち明けてるんですか?」
「私は学生時代にもう言っちゃったし、それならそうしか生きられないんだろうって思ってはくれている。流石に恋人を紹介したことはないけどね」
「要さんがお正月に日帰りでしか帰らなかったのもだからですか?」
「それは全然違うかな。前に母親は再婚してるって言ったでしょう? 再婚相手の人には息子もいて、私の実家じゃないなって思うからなだけ。母親との関係は別に悪くないよ」
「それなら、よかったです」
「うちの母親に挨拶に行ってみる?」
「それ、何か違う方向に取られるやつじゃないんですか?」
会うではなく、挨拶に、と要さんは言った。同義だったとしても、恋人を正式に紹介するって、それなりの過程あることを示すもののようで照れくさい。
「わたしはそのつもりだからいいのに。紗来ちゃんは誰かに話を聞いてみたい?」
「もうちょっといろんな考えを知りたいと思っています」
「じゃあ、ちょっとそっちは調整してみる」
「いいんですか?」
「誰かの意見に感化されるってこともあるだろうけど、今の紗来ちゃんは何かを判断する材料も持たない状態でしょう。わたしだけの紗来ちゃんでは居て欲しいけど、抱き締めていれば解決するって問題じゃないとも思うから」
要さんは私の悩みをきちんと受け止めてくれて、一緒に考えてくれる。
そんな格好良さにやっぱり惹かれてしまう私がいた。
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