第48話 告白

「週末に同期の友人と買い物に行ったんです」


「うん」


「そこで話の流れでLGBTは存在として認めるけど、傍にはいてほしくないって言われたんです。向こうは私が要さんと付き合ってるって知らないので、悪意があったわけじゃないとは思ってます」


「そっかぁ。それで悩んでいたんだ」


「はい……」


「わたしと付き合っているのが怖くなった?」


「私はただ要さんが好きなだけなのに、その気持ち以外の場所で否定をされて、他人にはこんな風に受け取られるんだって怖くなりました」


「紗来ちゃんはそういうこと、初めてだよね」


要さんと付き合うまでは、話題に出ても自分事ではなかった。でも、今は違う。


「要さんもそういう経験ありますか?」


「あるよ。レズビアンだってわかったら、友人が遠ざかって行ったこともあるし、告白して『あり得ない』って全否定されたこともあるから」


「それでも要さんが強くいられるのはどうしてですか?」


「わたしは迷ったからって変われるわけじゃないから。

多分紗来ちゃんはどちらでも受け入れられるだろうからバイセクシャルにはなるのかもしれないけど、わたしはどうやっても男性を愛せないタイプだから、自分が住める場所で生きて行くしかないんだって、わりと早くに割り切りができていたんだ。ノンケ……男女で恋愛はすべきだっていう人のことね。を好きにはならないようにはしてた。自分が傷つくだけだから。でも、紗来ちゃんは諦められなかったんだ」


「要さん、私のことを好き過ぎますよね」


「だって、可愛いんだもん」


「要さんは見た目だけじゃなくて、心までまっすぐで綺麗ですよ」


「それでもわたしの隣にいれば、紗来ちゃんは周囲から何を言われるか分からない。わたしは全力でできる限りのことをするけど、もし、それで紗来ちゃんが傷ついて心が病んでしまうくらいなら、傍にいないでおこうって選択肢も必要だって思ってる」


「私が男性とつきあって、結婚してもいいってことですか?」


「よくないけど、紗来ちゃんを壊すくらいなら、わたしは諦める覚悟もしてる」


「要さん以外つきあいたくないです」


要さんしかつきあったがないから言えることかもしれない。でも今のこの要さんを想う気持ちは消したくはない。


「そういう独占したくなるようなことを言わない」


「だって、要さんは諦めていいって思ってるじゃないですか」


「思ってないよ。諦められるわけないじゃない」


私の首筋に顔を埋めたまま、要さんの声は震えていた。


それは要さんが私と付き合う上でしてくれた覚悟だと分かった。私が迷って動けなくなった時、要さんはそれを選択する覚悟をしてくれている。


私のために。


「要さん……」


「周囲に気づかれないように努力することはできるけど、それは紗来ちゃんのストレスになる。私と付き合っていることを言えずに結婚はまだしないのって言われ続けるのもストレスになる。

もし、ばれてしまって反対されれば、それもストレスになる。どうやったって、わたしといることはリスクが大きいだけだってわかってる。それでも、わたしが紗来ちゃんといたいって言うのは本心で、紗来ちゃんと愛し合ったことを罪にはしたくない」


「罪だなんて言わないでください。私が望んだことですから」


「うん……」


「迷ってますけど、私は要さんが好きな気持ちは変わってないですからね?」


「ありがとう。この世界で人類が紗来ちゃんとわたしだけだったら、誰にも文句言われることないのにね」


「極端過ぎますよ。叶野さんと国仲さんはいてもいいんじゃないですか?」


「それだと完全に世界が滅亡するだけじゃないの?」


「国仲さんも叶野さん以外の人の子供は産みたくないって言っていたので、あと1人男性がいても結果は同じです」


「そっかぁ……」


要さんに背後から両肩を抱かれて、体を引き寄せられる。


「紗来ちゃん。ゆっくりでいいから、紗来ちゃんにとって何を守りたいのかとか、優先順位はどれかとか、考えてみない? 

でも、一人で悩むのはだめ。何かあったら、わたしに絶対話をして。どうやって行くか、一緒に考えよう? わたしは紗来ちゃんと一緒にこれから先ずっと生きて行きたいから、仕事を変えてもいいし、違う場所で暮らすでもいいって思ってる。お互い譲れるところと譲れないところがあるはずだから、一緒に考えて行かない?」


「私のことなのにいいんですか?」


「紗来ちゃんの悩みはわたしの悩みだよ。紗来ちゃんがわたしを特別だって思ってくれたから、迷わないで紗来ちゃんを一番にできたから」


「要さん……」


「キスしていい?」


「何で今更聞くんですか?」


「紗来ちゃんの迷いがどのくらいか計れてないから」


「だから、さっきキスしなかったんですね」


玄関で出迎えた時、要さんは私を抱き締めたけどキスをしなかった。


私が泣いてしまったからかと思っていたけど、要さんも迷っていたのだ。


「じゃあ、答えが出るまで我慢してみます?」


「それ、わたしに野獣になってもいいって言ってるってことだよね?」


しょうがないですね、と私は全身を要さんに預けた。

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