第38話 熱

要さんを誘うように腰に手を回してシャツの中に手を差し入れる。要さんの肌の感触を私の手はもう覚えていて、背に手を伸ばして緩く抱き締める。


それが正しい方法なのかは私には分からないけど、言葉を選ぶよりも熱を伝え合わせた方が、互いに近づける気がした。


「もう……どうなっても知らないからね」


「私にさっきまで興味なかったくせに」


「そんなわけないじゃない」


要さんからのキスが落ちる。


硬い表情をしていたくせに、キスは優しい。


キスをしながらも要さんの手は私の服を脱がせようと背後を探っていて、背が開かれる。


「要さん、慣れすぎです」


他人のワンピースを脱がせるなんて、そうあることじゃない。でも、要さんの手は迷いもなくファスナーを下げた。


「この服を買う時に脱がし方は確認したから」


「今度から要さんに服を貰っても着ません」


「可愛い服着てる紗来ちゃんも、素肌の紗来ちゃんも可愛いよ」


いつもの要さんらしさが出てきて安心したところはあったものの、本気になった要さんにそれどころじゃなくなってしまう。煽りすぎたかな。


私にくっついて離してくれなくて、おまけに要さんの手は言葉通り手加減なしに触れてくる。


まだ数えるほどしかしてないのに、要さんに触れられることにもう違和感がなくなっている。


「紗来ちゃん、大好き」


要さんに高められて、快楽で頭の中が一杯になって、声を上げても要さんはなかなか解放してくれない。


「かなめさんっ……」


「気持ちいいことは我慢しなくていいから」


そうしてるのは要さんのくせにと視線を向けると、体を伸ばした要さんに唇を奪われる。


要さんにいろいろ好きにされ尽くしてから、2人で並んでベッドに寝転がる。


甘えん坊モードの要さんは、寝ていても私を抱き締めて離してはくれない。


「要さんはエロすぎです」


「だって、エロく誘われたから、応えるべきじゃない?」


「さっきまで私なんかどうでもいいって顔してたじゃないですか」


「どうでもよかったわけじゃないよ。ただ、国仲さんにわたしの元気は張りぼてだって言われたから、紗来ちゃんは幻滅しただろうなって思ってただけ」


「そんなこと言ってましたっけ?」


私にとっては大して気にならなかった言葉だった。でも、要さんには違ったから、あんな風に落ち込んでいたのだ。


「……紗来ちゃんの前ではいつも笑っていたいの」


「元気な要さんも好きですけど、優しくて、真面目で、実はちょっと繊細な要さんが好きです。私のために無理に要さんだけが頑張る必要ないんじゃないですか?」


私の方が年下で頼りないけど、要さんの愚痴くらいなら聞けるかもしれないし、要さんが辛いなら抱き締めてあげたい。


でないと、私はいつまでも要さんに守られている子供のままな気もしていた。


「紗来ちゃん、やっぱりわたしの奥さんにならない?」


「ちょっと元気になったら、要さんはすぐ調子に乗るんですから。それは昨日もまだ早すぎますって言いましたよね?」


「聞いたけど、だって昨日よりも紗来ちゃんがもっと好きになっちゃったんだもん。離れたくない」


「駄目です。平日もちょっとくらいは泊まってもいいですから、付き合ってる時間をもう少しは楽しみたいです」


「それはそうだね」


毎日一緒にいられることに安心感はあるだろう。でも、要さんに会うことを心待ちにするとか、出かける楽しみをもうしばらくは感じていたい。


「ところで、要さん。要さんのベッドの方が寝心地良くないですか?」


要さんの部屋のベッドはセミダブルサイズで、私のベッドよりもホールド感がいい気がした。


「でも、紗来ちゃんの部屋のベッドの方がくっついて寝られるじゃない?」


私のベッドはシングルサイズで、正しくはくっつかないと寝られないだった。


「じゃあ、要さんは今度から床で寝て貰います」


「それ、酷くない?」


「ベッドで寝ていてもセクハラする気なんだってわかりましたから」


「だって、紗来ちゃんに触れているのが好きなんだもん」


「これからは有料にします」


「それ、お金払ったら毎日触り放題ってこと?」


「目を輝かせて言わないでください。チャージは愛情でしかできませんからね」


「じゃあ、チャージしていい?」


またやる気にさせてしまったと思いながらも、顔を近づけてきた要さんのキスを受け取る。


私に触れたいと思ってくれているなら、これ以上はもう気にする必要はないだろう。


ちょっと甘やかしすぎたかもしれないけど、明日から仕事で一緒にいる時間も減るから今日くらいはいいかな、と要さんに身を委ねた。

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