第35話 4人でのランチ

戻ってきた叶野さんと国仲さんと再合流して、叶野さんの車でとりあえず移動をしようかと誘われる。


叶野さんと国仲さんにくっついて行って駐車場に向かい、叶野さんが近づいた車にちょっと驚いてしまう。


白くて大きな箱形の車は、龍ちゃんが乗っていたよりも更に大きくて、女性が所有している車のイメージとかけ離れている。


「都築さんと楠見さんは真ん中の座席に座ってください」


国仲さんが慣れた手つきでスライドドアを開けてくれて、3列シートの真ん中に乗り込む。座り心地が私の知ってる車とは全然違って、これ普通の人が乗る車なんだろうか。


「2人ともご飯まだなら、一緒にどう?」


助手席に座った国仲さんからの誘いに頷くと、あそこにしようか、と国仲さんと叶野さんは簡単な会話だけ意思疎通ができて、叶野さんは車を動かし始める。


叶野さんの運転する姿は初めて見たけど、かっこいいとつい口に出そうになる。でも会社での叶野さんを知っているから、叶野さんって本当に何でもできるんだと、ちょっと感心してしまった。


国仲さんの恋人が統率力がある上に行動力もある叶野さんだということに嬉しさはある。でも、2人とも女性とつきあってるようには見えなかったので、驚きの方が大きかった。





15分くらい走った所で車は駐車場に入って、エンジンが止まったのを確認してから車を降りる。


途中で国仲さんがお店らしき場所に連絡をしていたので、ここに予約を入れていたのだろう。


「叶野さんって大きな車に乗ってるんですね」


「キャンプに行くために大きな車を買ったって聞いてる。前の車は同じくらいのサイズなのに人が2人しか乗れなくて、ちょっと困ったけど、この車にしてからは人が乗せやすくなって良くなったかな」


そう答えてくれたのは国仲さんだった。


まだ意識が追いついていない所があるけど、叶野さんと国仲さんが付き合っているのは間違いなさそうだった。


先導する叶野さんについて行くと、駐車場の隣の落ち着いた感じのお店の扉を開く。


シンプルな外観に入口には店名だけが遠慮がちに書かれていて、何のお店かはすぐに想像できない。


叶野です、と名前を告げると個室に通されて、叶野さん国仲さんと向かい合うように私と楠見さんは座った。


「お昼は定食メニューだから、好きなのを選んで」


叶野さんが開いてくれたメニューにはおさしみ、煮付け、天ぷら、など和系の定食メニューが並んでいる。その中から天ぷら定食を私は選んで、注文を済ませた。


「このお店、よく来られるんですか?」


「ここ、立夏の実家の近くで、よく立夏のお父さんとお母さんと来るの」


「それは付き合っていることを国仲さんのご両親は知っているということですよね?」


叶野さんの言葉には、国仲さんの家と家族ぐるみで付き合いをしているという前提があって、少なからず衝撃を受ける。


「プロポーズしたら、挨拶に行くものでしょう?」


揃いの指輪をしているのだから、そういう意味が込められてもおかしくはない。でも、国仲さんはなんとなくそういうことには保守的なように思えていた。


「もしかして、一緒に住まれていたりするんでしょうか?」


「もちろん。会社には伝えてないけど、一緒に住んでる。立夏の両親にも初めは反対されていたけど、今は認めてくれるようになったしね」


「むしろ、うちのお母さんは何でもすぐ維花に連絡するぐらい」


ため息を吐く国仲さんは、叶野さんのことを名前で呼んだことに気づいていないようだった。


年下で礼儀正しい国仲さんが、叶野さんを名前を呼ぶって、よっぽどじゃないとあり得ない。それが2人の関係の深さを示していた。


「それは車を出して欲しいからじゃない?」


「そうじゃない時もあるでしょう」


プライベートの叶野さんと国仲さんって、いちゃいちゃ度が増していて、見ている方に役得感がある。


「あの……お2人とも、その……女性が恋愛対象になる人だったんでしょうか?」


「ワタシも叶野さんも、それは違うかな。異性と付き合っていたこともあるし、ワタシは叶野さんだったから、かな」


「会社の外の叶野さん、めちゃくちゃ格好いいですしね」


付き合いたいじゃないけど、私の中での格好いい人No1は叶野さんだった。


「まあ、この格好の叶野さん見たらそうなっちゃうか。でも、昔の叶野さんって、楠見さんみたいな感じだったんだよ」


「えっ??」


「それはわたしも噂では聞いたことある。すごい美人だったって」


美人の要さんに対して、美人だったって言う人ってどんな人だろうと思ってしまう。


「頼まれてもあの頃に戻りたくないな。今の方が全然楽」


そう言って笑った叶野さんは、過去には全く未練がないようだった。


ちょうどそのタイミングで定食が運ばれてきて、それぞれ箸をつけ始める。


要さんとは休みの日によくランチに行くけど、和食系の店は当たりが見つからなくて和食のランチは久々だった。


「美味しい」


「でしょ? 近くに来るとつい寄りたくなるのよね」


私の向かいが叶野さんだって言うのもあるけど、近距離の叶野さんの笑顔はなかなか心臓に悪い。


叶野さんが昔は、要さんのようだったのなら、要さんもショートにしたら格好良くなるんだろうか。


「紗来ちゃん、叶野さん見過ぎ」


要さんに腕を引っ張られて、無意識に謝りを出す。


「やっぱりイケメンの方がいいんだ、紗来ちゃん」


「違いますよ。ちょっと考え事してただけです」


拗ねた要さんの機嫌を戻すのは大変で、その様を見ていた叶野さんと国仲さんに笑われてしまう。


「仲良さそうで安心した」



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叶野さんと国仲さんの馴れ初めは

channel  → ゼロイチ → release で書いています。

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