第34話 初詣
隣駅の近くに、ちょっと大きめの神社があることが分かって、翌日私と要さんはお昼前に家を出て初詣に向かった。
もう3日なので初詣客も少ないだろうと話をしながら電車を降りる。
私は昨日リクエストされた要さんにもらったワンピースを着て、それに合わせて年末に買ったミドルブーツを選んだ。
着たときに服に着負けしているような気がしたけれど、要さんが可愛いと喜んでくれたのでよしとすることにする。
駅からは徒歩で10分も掛からない場所に目指す神社はあって、少しだけまだ出店も残っている。
「初詣に来たの久々〜」
「要さんの家はあまり初詣には行かない方でした?」
「誘われても面倒がる方だから、わたしは」
「じゃあ、無理させました? すみません」
「そんなことないよ」
要さんが右側の腕にぎゅっと抱きついてくる。
「紗来ちゃんとのデートは大事だし、やっぱり紗来ちゃんとのことをいっぱいお祈りしておかないとね」
「エッチなお祈りするとバチが当たりますよ」
「だめか〜」
「そういうのは私に相談してください」
「相談したら聞いてくれる?」
「検討はします」
要さんが離してくれないので、そのまま腕を組んだまま社まで歩く。
そこそこ広さがある神社で、石畳の階段を上り、さい銭を投げてからお祈りをする。
願うことはやっぱり、要さんと今年一年仲良くやっていけますように、かな。
視線を上げると、要さんと目が合って、帰ろうと差し出された手を握った。
「要さんの手冷たいです」
「心が温かいからじゃないかな」
「要さんが言うと嘘くさくなるんですよね」
冗談を言い合いながら境内を歩いていると、駐車場に続く脇道らしき通路から来た2人組に目が留まる。
「国仲さんと、叶野さん?」
「あれ? 都築さんと楠見さん。明けましておめでとうございます」
頭を下げる国仲さんにつられて私も年始の挨拶を口にする。
「もう3日だから、みんな初詣に行った後かなって思っていたけど、まだだったんだ」
「実家に帰省していて昨日帰ってきた所なんです。折角だから行きませんかって楠見さんを誘って今日になりました」
「そうだったんだ。ワタシも似たようなものかな。昨日まで叶野さんとキャンプに行ってたから」
「キャンプって、真冬にですか?」
暖冬とはいえ、流石にキャンプをする季節じゃないだろう。
「叶野さんキャンプバカだからね。ほぼ毎年恒例なんだ。防寒対策さえしていけば何とかなるよ」
「どうせキャンプバカですよ」
隣にいた叶野さんがちょっと拗ね気味で、なんか可愛い。
でも、叶野さんと国仲さんはお正月も一緒に過ごすって、本当に仲がいい。
ん……?
ふと、目に入ったものを私は2度見をしてしまう。
何気ない仕草で持ち上げられた叶野さんの左手の薬指に指輪がある。
会社では指輪をしていないことは確認済みで、要さんから叶野さんには恋人がいると聞いていたので、していてもおかしくないけど、記憶にある国仲さんのものとデザインがよく似ているように思えた。
「やっと気づいたんだ」
小声で呟いた要さんに思わず視線を向けてしまう。
「そういうこと」
「ええっ!?」
「叶野さんの面倒なんて、国仲さんしか見きれないから」
その言葉を聞いた叶野さんが、背後から国仲さんの体に腕を回して、自らの胸元に抱き寄せる。
「叶野さんっっ」
国仲さんの照れた表情は、それが事実であると語っているかのようだった。
「会社では公にしていないから、黙っていてくれると嬉しいな」
イケメンに微笑まれて、ノーなんてもちろん言えるわけはなくて、首を縦に振る。
「あと、叶野さんと国仲さんは、わたしたちが付き合っていることも知ってるから」
「え…………?」
「都築さん、心配しないで。そのことは会社では黙っておくから」
国仲さんにフォローされて、何とか頷くものの、想定していないことが起こり過ぎていて、頭がフリーズしている。
ゆっくり話をしようかと叶野さんから提案を受けて、まずはお参りを済ませてくるという叶野さんと国仲さんをその場で待つことになった。
「要さんが言ったんですよね?」
知っているということはともかくとして、私に相談もなかったということが引っかかっていた。
「紗来ちゃん、えとね。それは微妙に誤解があるの。あの2人はわたしと紗来ちゃんが付き合う前からわたしがが紗来ちゃんを好きだってことに気づいてたの」
「えっ?」
「紗来ちゃんは素直で純粋な子だから、中途半端な気持ちで近づくなって、叶野さんに釘を刺されたのが初めで、多分それは国仲さんが叶野さんに知らせたからだと思ってる」
「国仲さんが?」
「2人ともわたしがビアンだって知っていたからね。紗来ちゃんと付き合うまでに叶野さんに何度面談されたか……」
「なんで、私が知らないところでそんなことになってるんですか」
もしかして、以前要さんが叶野さんと飲みに行っていたのはそういうことなんだろうか。
「だって、気づかれちゃったんだもん」
私の見えないところで要さんが苦労したのは分かって、これでは流石に要さんを怒るに怒れなかった。
でも、どうして叶野さんも国仲さんもそんなことをしてくれたんだろう。
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