第32話 年明け

「彼氏と電話か?」


無意識の内に要さんと電話をしながら家の端まで歩いてしまっていて、リビングに戻る途中に龍ちゃんと遭遇する。


「……まあ、一応付き合ってる人だけど……」


彼氏ではないけど、付き合っている人がいることくらいは龍ちゃんに言っても大丈夫だろう。


「紗来にも恋人ができるなんてな」


しみじみ言われてしまって、頬を膨らませる。


「それどういう意味? 私のこと好きだって、毎日言ってくれる人なんだから」


「物好きだな」


「そういう女性への配慮がないから龍ちゃんは振られるの」


「振られたんじゃなくて、俺が振ったの。休みになれば毎日会うのが当然だ、なんて面倒なだけだろ」


「付き合っていくとそうなっていくんだ」


「紗来もあんまり重いと振られるぞ」


「要さんはそんなことないもん」


そうだと信じているけど、どうすれば付き合いが長続きするのかを私は分かっていない。


「龍ちゃんってどういう感じの彼女なら長くつきあいたい? 結婚したい、かな?」


「美人で胸が大きければいいな」


「龍ちゃん! 真面目に聞いてるの!」


からかわれたことが分かって、龍ちゃんに文句を出す。


「それ以外だと、強いて言えばそいつに自分を預けられるかどうかだな」


「預けられるって、信頼できるかってこと?」


「まあ、そんなもんだな。どうせ紗来は彼氏に甘えっぱなしなんだろ」


「………………なんでわかるの?」


「そんなことだろうと思った」


私は何でも要さん任せにしてしまっている。要さんが甘えさせてくれるからだけど、要さんにも甘えて貰える存在になんてなれるんだろうか。


不意に叶野さんと国仲さんが頭に浮かんだ。


あの2人は恋人じゃないけど、国仲さんは叶野さんを信頼してるし、叶野さんは国仲さんを信頼している。


そんな関係に私と要さんはなれるんだろうか。





元旦の日は家族でゆっくりと過ごして、夜には従兄弟たちとも少しだけど会った。


1年ぶりの実家に懐かしさはあるけれど、自分の家じゃないと感じるように私はなっていた。


今の家が居心地がいいからなのかもしれない。一つに慣れると、他は遠くなるものなのかな。


家族や従兄弟たちも同じで、懐かしさはあるけれど、身近だった頃に比べると少し遠くなった気がしていた。


でも、私はここには戻らないという選択をして家を出た。


翌日は昼過ぎに駅まで両親に送ってもらって、要さんと会社へのお土産を買ってから電車に乗る。


要さんが4日も、と言っていた意味が、この4日の間で私も分かるようになってしまった。


帰ったら、要さんに初詣に行こうと提案しようかなと思いながら、私は目を閉じた。



今、新幹線を降りました

要さんは家ですか?


家でゲームしてる


休みの間中ずっとじゃないですか?


だって、紗来ちゃんがいないんだもん


すみません

夕ご飯にお弁当でも買って帰ろうかと思ってるんですけど、要さんもいります?


いる!

一緒に食べよう



思っていた通りの反応で、お弁当を買ってから最寄り駅までの電車に乗る。


2日の夜のせいか電車は空いていて、珍しく座ることまでできてしまった。


電車を降りると既に日は沈んでいて、もう18時を回っているから、冬だしこんなものかな。


改札を出た所で、ロータリーに人がいることに私は気づく。


遠目に見ても、その人は誰だか分かって、要さんに隣に住んでいるとばれた日のことが思い出される。


あの時は要さんと恋人になるなんて、思いもしていなかった。


「紗来ちゃん。お帰り」


「ただいま、要さん。ゲームしてたんじゃなかったんですか?」


「荷物多いかなって思って、迎えにきちゃった」


「寒いのに」


「紗来ちゃんに会えば温かくなるからいいの」


コート越しに要さんに抱きつかれて、このくらいならいいかな、とそれを受け止める。


「お土産買って来ました。後で渡しますね」


要さんの腕の中にいると、ここが私のいる場所だと安心できる。


いつの間に私はそうなったんだろう。

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