第31話 年越し
龍ちゃんの家と私の家が仲がいいのは、元々父親同士が友人同士だったからで、同時期にそれぞれの母親と付き合い出して4人でよく遊びに行って意気投合したと聞いていた。
たまたまその時に売り出されていた新興住宅地で横並びに土地を買って、それからは親戚みたいな付き合いをしている。
今年の大晦日は私の家で年越しをすることになっていて、私は朝から母親と買い物に出かけて、準備をして、と要さんに連絡をする間もないくらいだった。
昨日の夜に到着したことは伝えたけど、朝はまだ寝ているだろうとメッセージを送ることはやめておいた。
まだ1日しか経っていないのに、要さんにメッセージを送ると、声を聞きたくなる。きっと声を聞いてしまうと会いたくなる。
離れてみると、淋しさは募った。
夕方近くになると龍ちゃんのお母さんもやってきて、3人で宴会の準備をする。
長旅で疲れているだろうから休んでいてもいい、と母親は言ってくれたのだけど、折角帰ってきたんだし一緒に過ごしたい思いはある。龍ちゃんのお母さんも楽しい人なので、久々の母親たちとの時間はあっという間に過ぎゆく。
龍ちゃんのお父さんと龍ちゃんも19時前には顔を出して、テレビを見ながら年越しまで宴会になる。
23時を過ぎた頃くらいに年越し蕎麦を食べて、みんなで年を越すがいつものパターンだった。
今年の年越しは兄が帰省しないので、私の両親と龍ちゃんの両親と龍ちゃんと私の6人でだった。
小さい頃はどこかに遊びに行くとなれば龍ちゃんの家族と一緒だったので、この顔ぶれで気兼ねをすることはない。でも、私の両親も龍ちゃんの両親も年を取ったことは感じられた。
私が就職で家を離れるとなった時も、やりたいことをやればいいと両親は反対しなかった。その時は自分が一人で暮らせるのか不安で、そのことしか考えられなかったけれど、帰ってくる度に両親が少しずつ年老いて行っている気がした。
まだ2人とも60代だから全然元気だけど、いつかは動けなくなることもあるんだろう、とぼんやりとは考えている。
だからといって何ができるかは、私にはまだ見えていないけど、今が有限だということを知ったということは、少しは大人になったということなんだろうか。
まあ、その前に要さんとのことを伝えられるかどうかが先かな。
周囲にはそういう人はいないし、両親がどういう考えの人かを私は知らない。
私と同じのんびり屋だけど、子供に無関心という親ではない。
今すぐは無理だとしても、要さんと一緒にここで笑っていられたらな、とは思っていた。
年越し蕎麦を食べて、後は年明けを待つだけの時に私のスマホに着信がある。
表示されたのは『要さん』の文字で、通話ボタンを押しながら廊下に出る。
「要さん、どうしたんですか?」
「紗来ちゃんの声を聞きながら年越しをしたくて、電話しちゃった」
40時間ぶりに要さんの声を聞くだけで幸せな気分になる。
「私は年が明けてから電話しようかなって思ってました」
「年が明けて誰よりも先に紗来ちゃんの声を聞きたいから、フライングしちゃった」
「ゲームしてたんじゃないんですか?」
「今もしてるけど、ゲームでは紗来ちゃんがいない淋しさは埋められないのよね」
そういうことを要さんはしれっと言わないで欲しい。
「もう……2日の夜まで我慢してください。それに、要さんだって実家に帰るんじゃないですか?」
「わたしは日帰りだから」
年が明けてから要さんも母親と義理の父親の元に挨拶に行くとは聞いていた。泊まりでないのは、義理の父親に気を遣って、かな。
「気をつけて行ってきてください」
「うん。ありがと。年、明けたね。明けましておめでとう。今年はいっぱいいちゃいちゃしようね」
「明けましておめでとうございます。節度あるお付き合いでお願いします」
「紗来ちゃんが好きすぎるから、それは無理です。紗来ちゃんといっぱい一緒にしたいことあるしね」
「もう……要さんは」
「大好き、紗来ちゃん」
「……私もです」
言わせないで欲しいな、と首まで真っ赤になっていることを自覚しながら、私は電話を切った。
声だけじゃなくて、要さんに抱き締めて欲しくなってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます