第2話 アラートメール
「
私は今、製造系の中堅メーカのシステムの保守運用を担当している。
システムは作ってしまって終わりというケースはほぼない。運用中のトラブルや、メンテナンス、ちょっとした問い合わせや改善要望はよくあって、その対応をするのが私の仕事だった。
アラートメールらしきものが届いて、まずは過去の対応履歴を調べるものの、同じような事例は見つからない。インターネットを検索してもさっぱりわかなくて、先輩である国仲
「都築さん。いいよ。どうしたの?」
元々は別の先輩と2人で保守は担当していた。でも、その先輩は少し前に別のプロジェクトのトラブル対応に借り出されて、今は私一人で対応している。
とはいえ3年目の私が何でも完璧にこなせるわけはなくて、私の相談相手になってくれているのが、以前私の担当するシステムに関わっていたことのあるという国仲さんだった。
国仲さんは、隣の島に席があって、今は新規開発のプロジェクトのPL(プロジェクトリーダ)をしている。年は私より7つ上の32歳と聞いていて、いつも声を掛けると嫌な顔もせずに応じてくれる人だった。
私だけじゃなくて国仲さんは誰にでも分け隔てなく笑顔を向けてくれるし、丁寧に教えてもくれるので後輩の間で人気は高い。
「アラートメールが来てるんですけど、初めてのケースらしくて、どうしたらいいかわからなくて……」
私の席まで国仲さんが足を運んでくれて、隣の席の椅子に座ると、一緒にモニターを覗き込んでくれる。
私が保守を担当しているシステムには、システムのエラーをメールで知らせてくれる機能がある。その仕組みから、毎日のように何らかのメールが届く。それを一つずつ対応履歴を調べて、対処方法を確認して対応する、が日々の保守作業の一つだった。
でも、今日届いたメールは初めて見るもので、何をすればいいのか検討もつかなかった。
「ディスクかぁ。閾値超えてるなら、ちょっと放置はできないね」
「はい。どうすればいいでしょうか?」
ディスクとはハードディスクのことで、要はデータを入れておく為の箱みたいなものだというくらいの知識はある。
今日受け取ったエラーメールは、そのディスクの容量が増加してきて、危ないですよというものだった。
「このディスク、どこのサーバのディスクか分かる?」
「Webサーバです」
「じゃあ、ログはローテーションしてるはずだし、あまりデータは増えないはずなんだけどね。でも、本番環境だからシステム停止して調べるわけにもいかないし、ちょっとインフラチームに情報貰おうか」
「どう依頼すればいいですか?」
その後、国仲さんの指示を受けながら、インフラチームへの調査依頼メールを一緒に書く。
インフラチームは、サーバやネットワークなどシステムを動かす基本的な環境部分を専門に担当しているチームで、私が担当しているのは、その上に乗るアプリケーションの方なので専門分野が違う。
サーバの簡単な設定変更くらいは私ですることもあるけど、調査となると何から手をつけていいかも分からない状態なので、インフラチームに依頼するしかなかった。
「このままだとディスクが溢れるので、データを消すことになるんでしょうか?」
「それはもうちょっと原因が分かってからかな。ログが溜まっているだけなら消すで済むけど、システムとして必要なデータが増えているなら、ディスクを増やすとかお客さんと相談する必要があるかもね」
「ディスクって増やせるんですか?」
「クラウド上の環境だから、簡単にできるはずだよ。物理的にサーバがあったらハードディスクを増設する必要があるけど、クラウドだとそんな手間もいらないしね。でも、ディスクを増やすと維持費は多少なりとも増えるから、そこは意識してね」
「分かりました。インフラチームから返事が返ってきたら、また声を掛けてもいいですか?」
「うん。いいよ」
国仲さんは、私の中で数少ない声を掛けやすい先輩だった。
大きなプロジェクトのPLで、前に立ってプロジェクトを進めていくってタイプじゃないけど、フォローをしっかりしてくれると評判が良い。
国仲さんに憧れはあるものの、私はまだ設計書とプログラムを何とか書けるようになったくらいなので、国仲さんのようになれる自信は全くない。
私のいる部門には、もう一人、国仲さんと一緒に仕事をしているPM(プロジェクトマネージャ)の
男性の多い職場で、探さないと女性は目に入らないくらいだけど、すぐ近くに仕事ができる女性がいるのは心強さがあった。
インフラチームからの返事はその日の内に返ってきて、どうやらインフラチームで構築した部分でログの肥大化の問題が発生しているようだった。
どう対処するかは翌日にインフラチームのメンバーと国仲さんと私で打ち合わせをすることになる。
会議室の予約をして、スケジュールで会議案内を飛ばすまでが、今日の私ができることだった。
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