第5章 告白~SIDE:紗矢

 自転車を漕ぎ、暗い夜道を明かりもつけずに走る。

 と、鼻先に冷たいものが触れた。

 顔を上げる。

 厚くたれこめた雲から、針のような雨粒が降ってきた。


「さいっあく……!」


 雨脚はあっという間にひどくなり、全身が濡れ鼠になる。

 水を吸ったコートが身体にまとわりついて、思うようにスピードが出せない。


「――紗矢っ!」

「っ!」


 振り返ると、雨に煙る視界の中で、自転車のライトが近づいて来ていた。


「バカ、正樹! 来ないでよっ! なんで追いかけてくるのよ――――――っ!」


 強くなる雨の中、あたしは声をあげた。

 吹き付ける風の冷たさで、全身の鳥肌が立つ。

 寒さに手がかじかむし、寒さで足が攣りそうだし。


「お前が逃げるからだろ―――――っ!」

「あたしのことは放っておいてよ、馬鹿馬鹿バカぁぁぁ―――――っ!」

「放っておけるわけないだろ―――――っ!」

「あたしは、ロリコンに興味ないから―――――っ!」

「ロリコンじゃねええええええええええええ!!」


 曲がり角を曲がろうとするが、濡れた路面にタイヤが取られて、バランスを崩してしまう。


「っ!?」

「紗矢!」


 倒れる……!

 なにもかもがスローモーションになったような気がした。

 目をぎゅっと閉じる。でも予想していた衝撃も、痛みもいつまでもなかった。


「……っ」


 おそるおそる目を開ければ、正樹があたしの身体を抱きしめ、間一髪、受け止めてくれていた。


「へ、平気、か……?」

「……多分」


 心臓がうるさいくらい、ドキドキしていた。


「ひとまず、うちに戻ろう。雨がやばすぎる」

「いいよ、家まであと少し、だし……」

「そんな格好……っていうか、顔で帰ったら、おじさんもおばさんも腰抜かすぞ。いいから」

「……今、そんなにひどい顔してる?」

「相当だ」

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