SIDE:紗矢

 ああもう、何やってんのよ、あたしはっ……!


 逃げ出したのは、正樹に対する理不尽な怒りや、自分のあまりの愚かしさが嫌になって、耐えられなくなったからだ。


 中学生相手に嫉妬して、情けない!

 これじゃあ、あたしこそ、子どもじゃん。小学生並じゃん!


 口を離すと、思った。正樹は意気地なしだから。

 最初に正樹が折れて、それでひとまずの決着をつけて。

 それで今日をやり過せるはずだと、思った。


 なのに。


 唇に触れると、熱をもっていた。

 まだ、感触が残ってる――。


 自転車に飛び乗り、とにかくこの場から一刻も早く遠ざかりたくて、立ち漕ぎでペダルを踏み込んだ。


「紗矢、待てよっ!」

「!?」


 振り返ると、正樹が自分の自転車を引っ張りだそうとしているところだった。


 来ないでよ! 追いかけて、来ないでっ!


 あたしは正面を見すえ、とにかくペダルを漕ぎ続けた。

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