第6話 ネイキッドお嬢様、メイドカフェで裸体を晒してメイドの存在意義を奪う

 まさかメイドカフェまで来て、おでんの大根を頬張るとは思わなかった。


「やっぱりメイドカフェと言ったら、おでんですわね、ヒカリさん」


 響子さんは、すじコンの串をワシワシと貪っている。


 おでんあるんかい。と思っていたらホントにあった。しかもイベント用の商品ではなく、レギュラーメニューなのだ。正気かこの店は?


「どうして、メイドカフェでおでんなんて?」


 口が熱を帯びてきたので、わたしはかき氷で舌を休めている。こっちはちゃんと、イベントメニューなんだよね。チョコチップとフルーツで、シロクマの顔になっている。


「オプションで、リアクション芸なんかをリクエストできるのでは?」


 顔ヤケドするわ! なんでメイドカフェくんだりまで来て、熱々ゆでタマゴを食わされるメイドなんて見んとあかんねん。


「それにしても、メイドさんは暑そうですわね」

「フリル全開ですから」


 まだ初夏だというのに、妙な暑さである。もう少し夏本番となれば、浴衣企画などが始まるそうだ。ポスターに、時期が貼ってある。


「浴衣ですか。ですが、もっと涼しげな夏をお迎えする企画がございますわ」

「それは?」

「水着回ですわ!」


 しゅばっと、いきなり響子さんが脱ぐ。


「ファーッ!?」


 メイドさんだけではなく、お客までも響子さんの裸体に釘付けとなった。


 いけない。このまま響子さんだけが目立ってしまっては、メイドさんの尊厳を奪ってしまう。

 なんのために彼女たちは、派手な衣装に身を包んでいると思っているのか。

 威厳だけではなく、メイドさんたちの職まで奪ってしまう勢いだ。

 彼女たちの人生を、ただの給仕役で終わらせてしまってなるものか。


「はあ!」


 わたしは謎の光を放って、響子さんを守る。


「お嬢様! せっかくのお召し物が!」

「いえいえ。お色直しですので!」


 そんなに着たければ着せてやる。水着を!


 ドンキで買ってきたコスプレ衣装の中から、スク水を取り出す。わたしは常時、衣装入りの紙袋を用意しているのだ。響子さんが服を脱ぎ捨てたとき、サッと着せられるように。


 光が晴れると、ババーンと スク水姿の響子さんが現れた。


 周りのメイドさんも「おーっ」と、喜んでくれている。つまみ出されなくてよかった。


「浴衣祭りがあることを知って、ハッスルしすぎたんですよ」

「そうでしたか。これで頭を冷やしてくださいね、お嬢様」


 サービスとして、ミニかき氷をいただく。こちらもシロクマだ。


「ヒカリさん」

「はい?」

「おでんとかき氷は、絶妙なマッチングですわ」


 それはわたしも、新発見だった。

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