第3話 ネイキッドお嬢様、天ぷらうどんとともに自らの衣を剥がす
「みんな、がっかりしていましたわね、ヒカルさん?」
「ダンスが、平成版でしたからね」
体育の授業を終えて、わたしと響子さんは学食にいる。
「『タイミング』令和版を踊れる」とクラスのみんなは息巻いていた。
なのに、平成版に変わっている。スマホ映像だと、動きがコンパクトすぎるからだとか。
クラスメイトたちは、死んだように踊っていた。
「曲も、令和版のカバー曲にしてほしかったですよね、響子さん?」
明らかに、先生たちはブラックビスケッツのオリジナルバージョンしか知らない。
「いえ。わたくしはあっちしか存じませんでしたので」
そうでした。響子さんは、先生と感性が同じのようである。
「それにしても、『天ぷらうどん』とは随分と俗っぽいですね?」
「気にしたこともありませんでしたわ」
意外にも、響子さんはお弁当を持参しない。利用するのは、決まって学食なのである。
「学食のメニュー、おいしくありませんの? 腐っても創立五〇年、ずっと学徒の胃袋を支えてらした伝統あるお食事どころですのよ。女子校故に一般開放されない、秘密の花園ですわ」
「文句はありませんよ」
わたしは、カツカレーを口へ。うん、たしかにおいしい。これでも、リーズナブルである。学食ナメていた。
「ただ、お嬢様だから、もっとゴージャスなランチが来ると思ってました。それこそ、『シェフを呼べ』的な」
「あなた、お嬢様をなんだと思っていますの?」
呆れながら、響子さんがうどんをズズっとすする。
「まさか、ご相伴にあずかりたかったとか申しませんわよね? そんな意地汚い子ではないと判断したから、わたくしも母もあなたを信頼いたしましたのよ」
「ええ。まあちょっとは期待しましたけど」
「なら、よろしいではありませんか。ここの天ぷらうどんは、格別ですのよ」
響子さんが、天ぷらうどんのエビにかじりつく。
「うん。創立五〇年経っても受け継がれる、この関西風ダシ! あっさりした見た目に反して、農耕な味わい。そしてなにより」
二匹いるエビ天の一匹を、響子さんは箸でつついた。
「エビ天の衣を剥がす行為! 天ぷらうどんといえば、これですわ」
せっかくまとっている衣を、響子さんは丁寧に剥がす。
「美しいですわ。透き通った関西ダシに、天ぷらの衣が溶けていきます。いわば天然の天かす。これがまたうどんとマッチしましてズゾゾー!」
下品に、うどんを吸い込む。
しまった。食事に気を取られて、脱いでいることに気が付かないなんて。
厨房の大将が響子さんの裸なんて見たら、おいしくいただこうと考えてしまう!
急いで、響子さんに光を当てる。これでよし、と。
「……ヒカルさん」
「なんです?」
「トンカツを一切れ、ご相伴にあずからせていただけます?」
残りのエビ天と交換でしたら。
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