第2話 ネイキッドお嬢様、文豪に感化され脱ぐ

「ごきげんよう、みなさん」


 教室に入ってそうそう、響子さんが不機嫌になる。


「……皆さん。もっと何かありませんの!?」


 クラス内が、ざわつく。お嬢様相手に、なにか粗相をしただろうかと。


「ドアに細工をなさってくださらないと! 黒板消しを挟んでおくとか、バケツの水を吊るすとか。それをわたくしが被りさえすれば、堂々と脱ぐ口実が作れるではありませんか!」


 アメノウズメノミコトという神様が憑依しているため、どうしても脱ぎたい衝動にかられているお嬢様。


 響子さんにアメノウズメが入っているおかげで、この国は平和を保てているらしい。


 日本に貢献しているお嬢様相手にそんなイタズラをしようものなら、いじめっこの方が抹殺されかねない。進学も就職さえもさせてもらえないくらいの、制裁を受けるだろう。


「座りましょう。授業が始まります」


 響子さんのすぐ後ろに座る。


 HRの後、現国の授業が始まった。有名な文豪の書いた小説だ。


 授業を受け持つのは、若い男性教諭である。


「では、踊り子の入浴を見てしまった主人公の心境を……神楽坂さん、答えなさい」


 響子さんは「はい」と立ち上がった。


「お別れをしなければならない、と思ったのです」


 案外、マトモな答えである。


「だよね。踊り子とは、歳が離れすぎてるもんね」

「ええ、一刻も早くお別れをしなければ……服と!」

「ファッ!?」


 後ろ姿からでもわかった。響子さんは今、リボンに手をかけている。


「あんな小さな子が、肌を晒してくださったんですもの。こちらも脱がねば、スジが通らぬというもの!」


 響子さんが、バッと服を脱ぐ。


 これはいけない! 隠さねば!


 非モテの男性教諭がうら若きJKお嬢様の裸体などを鑑賞してしまったら、カフカのように醜く変身してしまいかねない!


 わたしは真後ろの席から、両手のひらで謎の光を放つ。


「どうしたというのだ早く服を着なさい!」

「先生、響子さんは着ています! 体操着を!」

「なにい!?」


 謎の光で隠している間、わたしは響子さんをブルマー姿に着替えさせていた。それはそれで、非モテ教師を興奮させてしまうか!?


「彼女は、体育の授業が待ち遠しいのです! 早弁ならぬ、早着替えです! 『タイミング』ダンスを体育祭で踊れるのが、楽しみでしょうがないんですよ!」


 体育祭の出し物は、Klang Rulerの『タイミング』ダンスだ。

 今、TikTokで流行っているダンスである。


「気が早すぎる。ほどほどに」

「はい」


 わたしは、響子さんを着席させた。


「ヒカルさん?」


 無事に授業を終えた響子さんが、振り返ってわたしに声をかける。


「なんです?」

「『タイミング』は、ブラックビスケッツの歌ではありませんの?」


 そっちかい!

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