猫おじさん、犬の少年に追いついてしまう
「……説明をしていただいても?」
なぜかやたら丁寧に、リオが説明を求めてきた。
「遠隔発動の要領だ。魔法の着弾場所の目印に短剣を用いて、」
「そういうことではなく! あの魔法は使用に許可の必要な『禁呪』です! しかも本来なら魔術師が複数人必要で! 詠唱もあんな短くない! いったい!!」
「待て待て待て。落ち着け」
今にも飛びかかりそうになっているリオをなだめ、一応説明を続けた。
「禁呪というのは知らなかった。引退してから時間ができてな。暇つぶしの一環に魔導書を読んでたんだよ。面白くて雷系の魔法はだいたい覚えた」
「あなたね…… 自分の二つ名が『閃光』だからってそこまでこだわる必要ないの! それに、あの魔法を使うには三人分の魔力がいるでしょ!? どこか体の具合が悪くなってたりしてない?」
リオが本気で心配している。俺が魔力枯渇で倒れずに平然としているのが嫌なのだろうか。
「いや、日常生活だけだと金が余るだろ? 時々
そういって、普段から持ち歩いている結晶をいくつか腰の小袋から取り出した。確かに袋に入れたときは鮮やかな透明の緑色だったのに、今では紫色に濁ってしまっている。
「ほら、こ……」
言いかけて、リオの顔が真っ赤を通り越して真っ黒になっているのに気がついた。
「そのサイズ…… 一体いくら使ったっての!?」
「いや、行きつけの店だから安かったぞ。70万ダカルくらい……」
しまった。
「その金額は!! 家が!! 買えるんです!!」
「シーっ! 声が大きい!」
そこまで話し込んで、ようやく自分が本来の目的を忘れていたことに気が付いた。
慌ててしゃがみ、ハチの同行を確認する。
「ヴォルむぐっ!」
それでも騒ぐリオを脇に抱えて一緒に茂みに隠れる。
魔法を覚えたのは今のように『ハチに気づかれずに彼から脅威を遠ざけるため』だ。暇つぶしと言う表現も間違いではないが、どうしても体が動く性分をなんとかしたかったのもあって、今では剣より魔法の方が便利で使い勝手がいいとさえ感じる。
「……なんだか、ちょっと空気がよくなったきがしますね」
ああ、それは結界石の効果だ。
こちらには気が付いていないようなので、安心して距離を保ちつつ追いかける。
「やっとつきました! あんまり距離は変わらないかもです!」
ハチは無事に森を抜けたようだ。
俺は思わず安心し、体がこわばっていたことに気が付いた。
「もお、ほほふてふへはひ?」
そして、まだ脇にリオを掴んだままなのも思い出した。
「あ、すまん」
「コホン! ま、まあ大声を出したことは謝罪するわ」
だが、その咳払いがまずかった。
「あ! 猫おじさん! また会いましたね!」
しまったああああああ!!
「……また?」
リオは怪訝な顔をする。
「よく会いますね! お仕事でしたか?」
「あ、ああ。あの森に狂暴なドラゴンがでるとかでな。上級ランクの探索者に討伐以来が出ていたんだ」
「え! そんなこと聞いてませんでした! さっきもいたんでしょうか……」
「心配いらん! さっき俺がバシーっと退治しておいたから、安心していいぞ」
「ふわぁ、流石です! やっぱり猫おじさんは頼りになります!」
耳が立ったり折れたり。尻尾を振ったり丸まったり。見ていて飽きない感情表現を込めてハチは話す。
「あの、そちらの方は?」
「ああ、俺が探索者の仕事をやってた時の仲m」
「現パートナーのエミリオーラよ。よろしくね」
「はい! いつも猫おじさんには助けてもらっています、ハチといいます!」
リオは薄笑いを浮かべながら俺とハチを交互に見てる。
「ハチくんは、猫おじさんとよくここで会うの?」
「たまにです。猫おじさんは しゅぎょーでよく森にくるらしいので、ここで採取依頼にきているぼくとよく会います!」
「そう。探索者がんばってるんだ」
「はい! Eランクに上がれば猫おじさんとパーティを組んでもらう約束なんです!」
今度は黒いオーラを込めてこっちを睨んできたな……
「ふーん…… そ う い う こ と ね」
「よ、よし! 何かの縁だ、今日は俺が夕食を奢るぞ!」
俺はリオの追及をうやむやにするために、ここから逃げる方法しか思いつかなかった。
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