第68話 勝つために必要なもの
「……え? もう全滅した?」
「はい。私のほかにも同じことを考えている方がいらっしゃったので」
「おぉ……なるほど。だからって一日目で終わるとは思わなかったけど」
思いのほかチョロいのか……?
なんて腕を組んで難しい顔をするフリエ。
湯上りアルフェは優雅にお茶なんてすすっている。
「……いや。よく考えてみたらキミみたいなことをしでかす人がたくさん来るわけなんだから、実はもっとやばい催しっていうことなのかな」
《テメェ発案だろ》
そもそもフリエにそそのかされたのに。
アルフェはベルに内心同意したが、気にせずクッキーをかじった。
「やはり私にはあなただけでいいような気もしますが」
「う、うん。……いやでもボクだけだと偏るしなぁ……」
まんざらでもないような表情をしつつもまたうなる。
彼女をよそにお茶を飲みほしたアルフェは、ベルにクッキーを《んめー》食べさせてやった。
「そこまでバリエーションに富んでみる必要もないのでは?」
「そうなのかなぁ? でも闘技大会っていったら魔術師からグラップラーまで出場するんだよ?」
「確かに魔術主体の相手とは戦ったことがありませんね……」
「うちの不良はみんな肉体派だからね。魔術師は良くも悪くも考えなしなことはしないから」
「そう考えると、風紀委員として励むことがなによりも実践なのかもしれませんね」
「ああ……うん。たしかに一理あるかも……」
うむむ、とまたまたうなる。
ずいぶんと真剣に考えているようだ。
アルフェは少し考えてから、まあいいか、とベルを抱っこする。
「……キミはずいぶんと余裕だね」
「少なくとも今日、自分より弱い者を相手にする価値はないと感じました。この子には少し歯ごたえがなさすぎますので」
《もっと強ぇやつがいいな》
「闘技大会が楽しみですね」
「ううん……学生ごときが舐めてかかっていいものじゃないと思うんだけどなぁ……」
ぼやくフリエ。
しかしアルフェとしても闘技大会を舐めているつもりはない。
どちらかというと舐めているのは学園生のほうである。
アルフェ単体ならばともかく、バレにくい程度でもベルの力を使ってしまえばその時点で相手になる生徒などそうはいない。
候補としてはフリエや風紀委員、おそらくは生徒会長のグレナド、それに教員……
しかし合法的に戦う方法があまり思いつかない。
それ以外では例えば学外の相手となるが、それこそ一体どうやって相手を探せばいいのか。
そうなると、やはりアルフェが合法に戦える相手として最も戦闘力の高いフリエこそが望ましい。
アルフェのやる気のなさはそういうものだ。
尊い犠牲者のおかげでかなり手加減も上手になったので、本格的にフリエとやりたいくらいの気分である。
そう思って見つめていると、フリエはため息を吐いた。
「まあなんにせよボクと戦わない理由はないか……」
「!」
《!》
「いや今からはしないからね? また明日にしようよ。ほら、お風呂も入ったし」
「そうですか……」
《もっかいはいりゃいいだろぉ?》
「キミってほんと……なんか……腕輪が絡んでなかったらお淑やかなのにね……」
やれやれとあきれるフリエ。
アルフェは肩をすくめた。
礼儀作法のSをとった以上、日ごろから神経を研ぎ澄ます必要はないのだ。
もとより染みついたものこそあれ、リラックスできる場所でリラックスしない理由もない。
「私のすべては目的のためにありますので」
《♪》
「まあ、そのために夜襲しかけるような物騒な人だもんねキミって……」
ベルとイチャイチャし始める彼女に、フリエはまたため息を吐いてベッドに寝転んだ。
まごうことなきふて寝である。
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