第67話 ライバルたち

「なんか楽しいことやってんなー?」


 三つほどクラブを潰したところで、アルフェはロコロコに遭遇した。


「戦いのケハイしてるけど、アルーだったか」


 くるくると警棒を回して今にも『対処』できそうな様子だが、もちろんいたって合法なアルフェには警戒する理由もない。


「闘技大会に向けて訓練しているのですよ」

「アルー闘技大会でるのか!? ロコもでるぞ!」

「あら、そうなのですか」

「……お、おおおうえんします!」

《んぁ》

「おお!?」


 ロコロコの背後からひょっこりと現れたミーティアにベルがしっぽを立て、ロコロコもびっくりして飛び上がった。


 ミーティアはアルフェにずずいと顔を寄せて、


「わっ、わた、わたくし、ぜひアルフェ様のおおおおおおうおおおうえんを!」

「ありがとう。恥ずかしい戦いはできませんね」

「はずかし……?」


 ぽかん。

 ぽふっ。

 急に顔を赤くしたミーティアはくるりとアルフェの後ろに回って顔を隠してしまう。


 彼女の奇行にもずいぶんと慣れたものだ。

 アルフェは気にせず歩き出す。


「この学園には闘技大会に向けて訓練しているクラブがいくつかあるので、その方たちを相手にすれば練習になるかと思いまして。ロコさんもどうですか?」

「いーなーそれ! でもアルーの獲物とるのはよくないからなー」

「ロコさんの戦い方を見るのも面白そうですが」

「そーか? んー。あっ、ついてかないほうがいいか? 見られたくないか?」

「お構いなく。知られているのなら相応のやり方があります」

「ほぁー。アルーはブジンってやつだなー」


 わくわくそわそわ。

 きらきらと輝く目でアルフェを見つめるロコロコに、ベルがしっぽをふさふささせる。


《なぁコイツとやろぉぜ? なんかコイツおもしろそうだぜ……!》


 ベルが興味を示すということは―――強いのだろう。

 もちろん風紀委員会に所属している時点でその実力はある程度担保されているのだが、それ以上になにかがありそうだ。


「本番で相まみえるのを楽しみにしておきますね」

「おー。そだなー」

《ぶぅ》


 とはいえ、闘技大会に参加するのであればその時に戦えばいい。

 例年予選は乱闘まがいのバトルロワイアルになるようなのでいくらでも全力で戦えるだろう。


 そうこうしているうちに、一行は次なる目的地にたどり着く。

 そこは『闘技会』という名前のクラブであり、名前の通りとでもいうべきか、闘技大会への参加を目標に活動する部活だ。


 そしてその部長は闘技大会本選への出場経験もある六年生らしい―――


《げはは》

「、」


 バゴォンッ!

 突如として扉をぶち抜いて飛来する大柄の男子生徒を、アルフェは片手でくるりと受け止めて足元に下ろした。


 片目に大きな傷跡、剛腕には強固なガントレット、そして黄金の腕輪。

 アルフェの求めていた闘技会の部長と、特徴が合致している。


「……血の匂いがするな」

「ちょうどいいですね」


 アルフェはベルを纏い、ぶち壊れた扉から部室へと踏み入る。


 ―――死屍累々。


 その言葉がふさわしい惨状だった。

 アルフェのときと違うのは、誰もが少なからず出血していることだろう。技術をぶち抜く暴力による光景だ。


 そしてその中央に立つのは、長い金髪をふたつまとめに揺らす幼い少女。

 そう見えるだけの怪物であることは、返り血の一滴もないその姿と、それとは裏腹にべったりと赤黒く染まった四肢の装甲、そして血濡れの黄金が示している。


 それと、もうひとり。


「あっ、おひさしぶりッスー」


 初めて風紀委員と接触した学内ガイダンス、そのときに対応したあの気さくな男子生徒が部室の奥から手を振っていた。


 彼はひょろりと歩いてくると、少女の隣で立ち止まる。


「アルフェさんも武者修行ッス? 悪いッスけどここはこちらのお方が終わらせちゃったッス」

「……兄さま。変な物言いはよして」

「気にしすぎッスよ姫君」

「……」

「うわめっちゃきたねッス!」


 ぽこすかと血だらけの拳を振舞われて悲鳴を上げる風紀委員。

 しばらくじゃれていたが、アルフェたちの呆けたような視線に気が付いてこほんとひとつ咳払い。


「いや実はうちの妹は保護観察処分中なんッスよ。でも闘技大会に出るっていうんでこうして見張ってやってるんッス。風紀委員が一緒ならってことで特別なんッス。いやー、やんちゃな妹を持つと兄は大変ッス!」

「うるさいっ。そんな人のことどうでもいいから次に行く」

「あんま引っ張ると暴行の罪でお縄ッスよー。あ、これから近場のクラブを回るつもりッスからよろしくッスー!」

「はい。頑張ってくださいませ」


 わいわいと騒がしいきょうだいを見送る一行。

 しばらくしてロコロコが首を傾げた。


「似てなかったなー」

「そうですね。まあ、そういうこともあるのでしょう」

「これ、これから、ど、どどどうするんですか?」

「もちろん次に参ります。あまり本選出場の看板は気にしないほうがいいかもしれませんね」

《さっきの女、なぁんかイイ感じだったぜ》


 そんなやり取りをしながら部室を後にする一行。

 風紀委員である『ッス』の人が黙認している以上は法的に許容範囲の負傷なのだろうから、そこら辺の生徒たちは完全に無視である。


「それにしても……同じことを考える方はやはりいらっしゃるのですね」

「なんか今からわくわくしてきたなー! やっぱロコも戦ってくるー!」

「行ってらっしゃいませ」

「わ、わたくしはアルフェ様のおそばにい、います」


 元気よく走り去っていくロコロコを見送って、アルフェもよしっと気合を入れる。


 全滅させられる前に自分も頑張ってクラブ潰しをしなければ。


 そんな決意とともに、彼女はベルによって襲撃から遠そうなクラブを目指していくのだった。

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