第57話 封炎の神殿
側溝を流れる溶岩によって照らされる石造りの迷宮。
通路と小部屋によって構成される広大な迷路には、金属鎧のがしゃがしゃと重なる音が響く。
鎧まとう炎フレイナイト―――動くたびに隙間から炎を噴出させるフルプレートメイルは、手に手に剣や槍を持ち侵入者を排除しようとする。
彼らはこの場所の守護者なのだ。
その最奥に封じられたものを守るための……という伝説はあるが、伝説はしょせん伝説である。
学園迷宮第三層『封炎の神殿』
その最初の小部屋でアルフェとベルは熱烈な歓迎を受けていた。
次々と襲い来るフレイナイトたちを爪で牙で引き裂き、直剣で打ち払いながら鎧の山を築いていく。
しかしあふれ出した炎は散らばった鎧をまたまとうと武器を握って立ち上がった。
《げははは! 遊び放題だぜ!》
「もうしばらくは続けますよ」
《おうよ!》
ふたりはなにも遊んでいるわけではない。
ちょっと叩いただけ(ふたり視点)で面白いように崩れるのが楽しい、などと思ってはいない。あんまり。
この場で戦い続けているのには理由があるのだ。
《むっ》
ひたすらに鉄くずの山を量産しているとベルがしっぽをピンと立てる。地鳴りとともに通路の向こうからフレイナイトの残骸が次々と吹き飛んできて、嵐のように回転したベルがそれを吹き飛ばす。
通路の向こうから現れたのは轟々と燃え盛る炎を兜からほとばしらせた巨大な鎧だ。斧と槍が合体したハルバードを突撃の矢じりに、それはアルフェたちめがけて爆進した。
《グゥラ……ガォアアアッ!!!》
咆哮とともにベルは跳ぶ。
真正面からの突撃が巨体とぶつかり合い―――
バギャンッ!
爆ぜるように巨体がぶっ飛ぶ。
フレイナイトたちをなぎ倒して墜落するその真上から叩き伏せるベルの牙が胴体をぶち抜き、噴き出した火炎が周囲の鎧をドロドロに溶かしていく。
《げはは、ザコがよ》
炎と溶岩の中でベルは立つ。
その口内には、まるで炎がそのまま固体となったような歪な結晶を咥えていた。
これがフレイナイトの討伐証明部位。
ある一定の場所で戦い続けることによって出現する上位個体からのみとれる炎の核だ。
このためにアルフェたちは戦い続けていたのだ。
そして。
《はぁん、次はテメェかよ》
ギロリと通路を睨んだベルへと飛翔する轟音。
ギャギッ! とすさまじい音を立てて極太の矢を咥え取った彼女はそれを思い切り投げ返し、通路の向こうで巨大なボウガンを構えていた鎧の胴体を貫通した。
フレイナイトの上位個体には種類があるので、討伐証明部位として認められるには個数を集める必要があるのだ。
そして沈黙したボウガンの向こうから、次に現れるのは鎧と盾を構えた鎧だった。
《げははは! いいぜいいぜ!》
「こちらも来ましたね」
反対の通路からのっそりと姿を見せるのは両腕が刃となった鎧。
それらは各々武器を構えると、猛然と小部屋に殺到してくる。
「……不思議な気分ですね」
直撃すれば簡単に身体が真っ二つにされそうな勢いで迫る刃を前に、アルフェはどこまでも凪いでいた。
よりにもよって刃だ。
そしてアルフェの手中には剣がある。
だから。
「なんというか、感覚がマヒしているように感じます」
横ざまに振りぬかれようとした刃が地面に突き刺さり、続けざまに振り下ろされる一撃もまた同じ。
両腕を地面に食い込ませた鎧は次の瞬間四肢の隙間を滑る刃によってバラバラになり、ひゅ、と静かな一閃が鎧を切り裂きこじ開けた。
「無手のフリエ先輩のほうがよほど恐ろしいですね」
魔術で強化された腕を迷いなく炎の中につっこんで、炎の核を奪い取る。
ガラガラガッシャンと崩れ落ちた鎧から振り向けば、ベルが炎の核をころころして遊んでいた。
これで計四体。
もちろん通路の向こうからは新たなフレイナイトが供給されてくる。
相手が人型である分、フリエとの訓練の成果が実感できるようだ。
「これはこれで楽しめそうですね」
《もちょっとあそぼーぜ!》
獣のような振る舞いで突撃してくる鎧をズタボロに引き裂くベル。
アルフェもまた同じように鎧たちと向かい合う。
フリエや最強の剣にはとても届かないとしても、対人経験を積むには便利な相手だ。
もう少し楽しませてもらおうと、アルフェはそっと頬を割いた。
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