第33話 仮面の内側で壊れたモノ(元史)

先ほど先生から修学旅行で何人かがいなくなったという旨が伝えられた。


このまま修学旅行は無くなってしまうのだろうか?周りの生徒も同じようなことを考えているのか、ザワザワし始める。


何組の誰が居なくなっただとか、連れ去られた、いきなり消えたect…いろいろな情報が交錯する。


僕も折角の修学旅行なのにそれは嫌だなと思いながら隣にピッタリとついている桜に話しかけてみる。


「いきなり生徒が居なくなるなんて、なんだか不気味だね」

「そうですね、でも大丈夫ですよ。亮君は私が守りますから」


先生から伝えられた情報や周りの噂などを聞いて不安になっている僕に、桜は優しく笑いかけた。


「それは心強いね。まあ桜は僕より何倍も強し大丈夫かー、それにしても修学旅行、無しになっちゃうのかな?」

「多分、それは無いんじゃないですか?」


亮は何故だろうと疑問に思い横を向いてみると、今度は凄い目つきで睨んでいた桜に驚く。


睨んでいた先は…進藤先生?桜は進藤先生が嫌いなのだろうか。すぐさま桜から視線を外して、見なかったことにした。だからだろう、


「まあ、別にどうなろうと構いませんけど」


冷酷にそう呟く声は僕には届かなかった


結局修学旅行は、続行されることになって、次の日は桜と一緒に帝京都の観光スポットを回ることになった。


朝食を済ませて、待ち合わせのロビーで桜が来るのを待っていると、霧島君から挨拶をされる。


「よ、小鳥遊、おはよ~、昨日はよく眠れたか?」

「あ、あ霧島君、おはよ。まあ、ボチボチかな」


彼の名前は、霧島 光きりしま こう君、いつもクラスの中心にいて、行事などでは皆を引っ張るリーダー的存在。


そんな、僕とは真逆の存在である彼を見ていると塗根が締め付けられる。自分に自信がなくなる。


彼が特段できていて、優しいことさえも僕の劣等感を刺激する。それでも、僕が日陰者であるのを気に留めていないような彼が好ましかった。


「マジか!?いいな~俺らの班がさ、昨日の先生の話を聞いてから怪談話をしようとか言い出してな。全く眠れなかった」

「あははは。それは災難だね」


やっぱり昨日の先生から伝えられたことは生徒たちの中で持ちきりの話題だったらしい。霧島君から生徒たちの中で話題となっている噂話などを聞きながら時間をつぶしていると、


「すみません、お待たせしました、亮君」


にしてやっと桜がやって来る。


「おはよう、桜」

「よう、おはよう彩」

「霧島君もおはようございます」


霧島君が桜のことを下の名前で呼んでいることに、心がチクリとす。しかし、呼ばれた当の本人がなんの気にも留めずさらりと受け流したため、僕は何とも言えなkなってしまった。


僕が一人で落ち込んでいた間にも会話が進んでいたらしくて、霧島君がある提案をしてきた。


「そうだ、彩も一緒に俺たちと見て回らないか?あの件で悲しいのは、俺も同じだからよ。一緒に話して回ろう?」


あの件で? それは何のことだろうという疑問が僕の頭の中を支配する。そして、僕の知らない何かを二人で共有しているという事実にまた胸が苦しくなる。


それに、今回は桜と二人で一緒に回ろうと誘ったのだ。だから―


「あの件は、もう大丈夫ですよ。もう割り切れてますから。それに、私は亮君と見て回ると約束していたのですみません。」


桜の言葉に僕は心底ほっとする。これで、今回の修学旅行は無事二人で回ることができそうだ。しかし、息をついていたのもつかの間、霧島がいったつぎの言葉で僕は体が硬直してしまう。


「じゃ、じゃあ、今日の夜ここのロビーに来てくれ…話したいことがある」


霧島君の一世一代の決意をしたような目、それを見て、そんなセリフを吐かれれば、僕であろうと気づく。きっと霧島君は告白するのだろう、桜に。


そう考えると、収まったはずのモヤモヤがまた胸に広がる。そして、そのモヤモヤを抱えながら1日を過ごすことになるのだった







§







「ここか…やっとこれたね」

「そうですね、随分と時間が掛かってしまいましたね。」


肩で息をしながら、眼前に広がる風景を見てみれば、平野には似つかわしくない大きな山が広がっている。


大きいといってもそれほど標高がないわけだが、平野という平らな場所に存在するだけで視覚的錯覚で大きく見えるのだ。


ここまでくる際に電車の乗り継ぎを、尽く失敗し時間を食われてしまった。事前にしっかりと準備をしなかったことを後悔する。


まあ、今そんなことを悔いても仕方ないのでとりあえず登ることを決意した。


僕たちが来たところは、祈願が成就しやすいと有名な神社である。神社は山の上にあり、何千何万もある鳥居を潜って登って行く。


大自然まではいかなくても、そこそこの手入れがなされているであろう自然。でも、何か特別な感じがした。


斜面が急というわけでもなく、僕たちは順調に登っていた。しかし、山を登り始め、ちょうど山の中腹くらいに来たあたりで、後ろから何やら声が聞こえた。


「っつ!!」


僕は、振り返り桜の様子を見てみると、その場に座り込んで足をおさえているようであった。


「どうしたの?足でも捻った?」

「はい…すみません。慣れてない靴を履いてきたためか……すみません」


ポケットから登山用の案内ガイドを取り出し、休憩所などを調べてみるが生憎と存在しない。


「うーん、この近くには、休憩場所はなかったよ?僕は頂上に行ってみたいしなあ」


今朝のことが頭によぎってどうしても頂上まで登りたかった。もう神様でも悪魔でも縋りたい気持ちでいっぱいだった。


このまま桜と別れて頂上まで登るか、一緒に下山するかを迷っていると、そんな僕を置いて桜は下山し始めた。


「確か神社の麓に休憩所があったので私はそこまで降りて待っていますね」


今度は僕が取り残されてしまう。


「わかったー、じゃあまたね」


とりあえず吐き出した僕の別れの言葉は、自然の中へと静かに埋もれていった。


桜の姿が完全に消えて、見えなくなった後、再び登山を開始する。


少し道に迷ってしまったが何とか頂上に登頂すると、そこに待っていたのは、有名という割には簡素な建物であった。


木で日光が遮られているということもあり、なぜか神社というにはあまりにも不気味で、ジメジメとした空気が支配していた。


これが神力ということなのかな?日常からほど遠い、非日常の風景に当てられそんな筋違いなことを思い浮かべてしまう。


とりあえず、財布からお金を取り出してお賽銭に投げ込む。


コンッと気味のいい音が鳴りお金が賽銭箱に吸い込まれていった。


二礼二拍手した後に、何を願うのかについて思いを巡らせる。出てきたのはやはり朝の出来事だった。


今日の夜、霧島君が桜に告ること。それが指に刺さった棘のように僕の心をジュクジュクと痛めつけていた。


だから、軽い気持ちで願いを浮かべてしまう。失敗してほしいと。


いきなり辺りがなったため、何事かと周りを見回し、視線を空に向けると今にも雨が降り注いできそうなほどに分厚い雲が、太陽を隠していた。


辺りが暗くなったことで、一層不気味さが増したため、僕は逃げ去るようにその場から離れた。








§







山の麓に戻って来ると、休憩場で座っている桜を見つけ無事合流することができた。


「桜、今戻ったよ」

「あ、亮君ですか、どうでしたか、っつ!!!」


桜が僕のに振り向いたとたん、僕の姿を見て目を見張った。そのまま固まってしまった桜を心配して声をかける。


「桜?」

「す、すみません。亮君はどこに行ってきたのですか?」


僕の言葉で正気に返った彩が、鬼気迫る表情で尋ねてくる。


「うん? 神社だけど…」


そんな桜の態度に気圧されながら、返答すると、今度は何やら思案顔になり、手を口に当て、足をプランプランとさせ何やら考え事をし始める。


そして、ストンと軽やかに椅子を立ち上がると、ニコリと笑い掛けながら、手を合わせ謝る。


「すみません、大丈夫です」

「そ、じゃあ次行こうか!せっかくだからたくさんみて回りたいんだ!!」


桜の微笑み見とれてしまったことがバレないように、少しばかり大げさに言っておどける。


ば、バレてないよね!?


あの後、数か所見て回り、夜ホテルに戻るとまた、生徒が行方不明になったことが知らされた。その中には、クラスのマドンナ的存在である百合草 葵さんが含まれていた。彼女とはあまり話したことはないが、有名人であったことから驚きの方が勝った。


しかし、またしても修学旅行は中止にはならなかった。先生からの注意事項だけだ。しかし、その注意事項すらも耳の中をそのまま通り抜けてしまう。


今日の夜……霧島君が桜に告白……


そしてその夜、やはり気になった僕はこっそりとロビーに降りて、ことの結末を見届けようとした。物陰に隠れ、二人を遠目から見守る。


「桜、単刀直入に言う。好きだ!どうか俺と付き合ってくれ」


霧島君が、桜に告白をする。


当事者でもないにも関わらず僕の心臓がバクバクと大きな音を立てて、悲鳴を上げる。


「…すみません、残念ですが、死の気持ちに応えることはできません」


僕はそれを聞いた瞬間、安堵した。



昼、あの神社で行った願いが叶ったのだろうか?だとすれば、効果抜群だ


それから、霧島君と桜が話していたようだが、全く耳には入っていなかった。





§






修学旅行が始まって数日が経過しついに修学旅行最終日だ。


楽しい時間はすぐに過ぎ去ると言われているが、本当にその通りだ。


今日で僕たちは帝都に戻ることになる。しかし、当日の朝になって桜から申し訳なさそうに話を切り出された?


すみません亮君。今日は一緒に回れません。」

「え?そうなの?誰かと一緒に回るとか?」


瞬時に霧島君のことが頭によぎる。おかしい、霧島君の告白は確か断っていたはずだ。それじゃあいったい誰と?


「いえ、そう言うわけではありませんが……」


申し訳なさそうに、そして、困ったように眉を八の字に曲げて、顔を俯かせてしまう。


僕はこれ以上、桜に言うべき言葉が見当たらず、そのまま最終日は一人で回ることになった。


前日までとは違い、色あせた風景が広がる。最初こそは色々回ろうというモチベーションもあったがすぐに消え、集合時間の3時間前には集合場所の駅についてしまった。


適当に駅構内で過ごしているうちに、同じ中学校の生徒が帝京都駅に集まり始める。


しかし、いつまでたっても桜の姿が見当たらない。そして時間ギリギリで、姿を現す。


いつも、時間を律儀に守る桜に関しては珍しい。


「どうしたの?めっちゃ時間ギリギリじゃん」

「すみません、用事が少し押しちゃってしまいまして…」


そう言う桜はところどころ切り傷があり、せっかくの可愛い私服もところどころほつれ茶色いところがあった。急いで転びでもしたのだろうか?


「何? 転びでもしたの?」

「ふふふ、心配してくれてるんですか?大丈夫ですよ、私は強いですから。」


どこかかみ合わな会話が続く。桜はどこか心あらずといった感じで、生返事か文脈に合わない返答ばかり。


「そうだよなー桜は最強だしな」

「ええ、そうです。だから、あなたは私がちゃんと守ります」


新幹線が駅のホームに入ってきたため、桜の最後の声が聞こえなかった。


「え?なんか言った?」

「いえ、なんでもないですよ。ただ、やっと終わったと思っただけです。」


桜の言い回しに疑問を覚えつつも、言い間違えだろうと、気にすることなく流す。




修学旅行が終わり、数日経ったある日、世間を震撼させるニュースが飛び込んできた。


その内容とは、百にも及ぶ人間の女子の死体が発見されたと言うものだった。その場所は、僕たちが2日目に行った神社の山からだった。


被害者の名前は報道されていないが、行方不明になった人たちではないかと言う噂が流れている。


「桜はこのニュースどう思う?大量虐殺だってさ、怖いね」

「そうですね」

「あの2日目に行った山って言うんだから、すこい驚いたよ」

「ふふ、大丈夫ですよ、何かあっても私がいるじゃないですか」


僕たち学生はいつも通りの日常に戻りつつあり、今日もめんどくさい学校が待っている。












そんな中、桜はいつも通りの茶髪のポニーテールでいつものように笑いながら言う苦しむ


「だから、だから……まだ大丈夫です」

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