修学旅行大量神隠し事変
第31話 修学旅行でクールぶっても無駄。
新幹線の中で作業をする奴、頭おかしくないか⤴(失礼)
俺の周りではバーという風を切り裂いているような音が鳴り響いている。
やはり時速270kmというものは大きなエネルギーをもっているらしい。
その大きな空力音は新幹線の壁を突き抜けるだけに留まらず、外界の音を遮断するために装着していたイヤホンすら貫通させる。
それでは、音楽を聴くことをあきらめて読書に耽ようとすると、右に左にへと揺り籠のように単調に繰り返される振動の中では、眠気を引き起こされてしまう。
まさに隙を生じぬ二段構え…
いや、暇を生じさせる二段構えといった方がいいか。
だから、このような環境で、何かをしようとするなど根本的におかしいのである。
我々、学生という立場にあるものは、もっと優雅に新幹線に乗らなくてはならない。
隣りで、必死に作業をしている社畜を憐れみながら。
そして前の席でスターぁバのコーヒーを片手に飲みながら作業している、会社でも、新幹線でも浮いていいるであろう自意識の位置エネルギーが高い7.3分けを見て、鼻で笑いながら。
窓に肘を乗せ、景色を眺め過ごすことがなんとも素晴らしいことか…
今の若者は分かっちゃおらんのですよ。
そう、だからつまり新幹線に乗るときは、窓側の席で景色を見ることがマストなわけで…
「故に、俺と窓側の席、変わってくんね?」
俺は、隣の席に鎮座している人物に話しかける。
横にはザ・大和撫子と言わんばかりの少女が座っており、読んでいたであろう本から目を離して、不満そうにこちらに視線を向けてくる。
髪は一本一本がきめ細かく、
そして髪のツヤツヤを体現しているかのように頭には天使の輪が生じている。
きっと、その美少女の口から出てくる言葉は、カナリアも恥じらうようなきれいな音色で、万人もの人を元気づける物に違いない。
「なにが、『故に』かなのかは分かりませんが、嫌ですよ?」
しかし、むっとしたような感じで、にべもなく断られてしまった。
俺の横に座っている美少女は、
あのいじめ事件からもうすぐ1年が経とうとしている。
中学生といえば、身も心も大きく成長する時期であるのにも関わらず、言葉の切れ味はまったくもって変化していないのはなぜなのだろうか?
コイツは毎日自分の言葉でも研いでるのか?そろそろ刃がかけて、デレてくれてもいいというのに。
「それに、あなたが窓側の席に座ったところでずっと窓の外を見ているだけでしょう?自分に酔いながら決め顔、ドヤ顔でいられる隣席の人の身にもなってください」
「ねえ、いつも思うんだけど、俺ってそんなに顔に出ているの?そんな痛々しい感じなの?」
俺は、自分のほっぺたをモミモミしながら、問い返す。
そんな俺の行動に呆れたのか、手を頭に当てながらため息を吐く。
「痛々しいも何も…学校行事で自分が達観してると勘違いして、冷めているふりをすること自体がもう見ていられません」
「う゛っ……」
「『大人びてる』ということと『ノリが悪い』ことを勘違いして、自分は落ち着いていると憂い顔でいられることが一番手に負えないです」
「こひゅ……」
バン!という大きな破裂音みたいな音が鳴った後、窓の外の景色がいきなり真っ黒に塗りつぶされる。それはまるで、誰かの急所を打ち抜いた銃声音のように
止めて!!!もう止めて!!これ以上俺たちの黒歴史を刺激しないで!!
コイツの言葉は危ない!百合草の言葉は人一人を跡形もなく屠り去るくらいのエネルギーを持っている。
「いつもはクラスで猿のようにキーキー喚めいている猿も、クラスの端で本相手にニヤニヤとしているカタツムリもこぞって同じことをし始めるのですよ?」
「ゃ…て」
「そのくせして、こちらをチラチラとみて―」
「やめろおおおおおおお!!!!」
こんな女子の生々しい気持ちなんて聞きたくなかった…
もう嫌だ…何なのこの子、怖いんだけど…
もうこの世からほとんどの男子を瞬殺できるレベルなんですけど。
俺がいきなり声を張り上げたためか少しばかり驚いた表情をする。しかしながら、すぐさま冷ややかな目を向けてきた。
早く話題転換しなければ…
「け、景色を見るのはも、もういいかな~。折角だし何か違う話でもしよう?」
「そうですか、奇遇ですね。ちょうど私も読書が一息ついたところなんです」
本をぱたんと小気味良く閉じて、まるで聖母のような笑みをたたえながら百合草は言った。
ちょうど新幹線もトンネルから抜け出したのか、再び百合草の頭に天使の輪が現れる。
ただ、トンネルをくぐる前と違うのは、ボードゲームやトランプゲームに勤しんでいた生徒たちが窓の外の景色を覗こうと色めき立っていることである。
そんな様子が、どこかテレビの向こう側で見ているかのような感覚に思えてしまう。
しかし、そんな
「それでは、あそこに座っている、周囲が珍しい景色でテンションが高い中、薄ら笑いを浮かべながら目を瞑っている彼について話しませんか?」
だぁぁぁぁぁぁぁぁかぁぁぁぁぁぁぁらぁぁぁぁぁ!
止めろって…(瀕死)
§
「そういえば…あなたは修学旅行中どこへ行く予定なのですか?」
百合草と他愛もない話をした後、やはり修学旅行の話へと発展した。
とても今更な話であるのだが、俺たちは修学旅行中である。行先は帝京都で1週間くらいの長い旅行だ。
アニメや、ラノベのように、生徒たちの自由度が高く、1週間のうちのほとんどが自由行動。もちろん、絶対に行かなければならない場所というものが学校側から指定されていいるので、完全自由という訳ではないのだが。
それでも、前世と比べると、放任的というかなんというか…
この自由に行先などを決めることができるということは裏を返せば、生徒たちが全てを決めなければいけないということである。(小泉構文)
「あ~…修学旅行中の行き先に関しては…皐月に全面的に任せていてな…」
「え!?英梨ちゃんにですか?」
珍しく、声を張り上げ。信じられないものを見るような目を向けてくる百合草。
「え?なんか俺やっちゃいました?」
「……」
「……」
「まあ、とりあえず頑張ってください」
万人に言えば万人が額に青筋を浮かべるであろうセリフを吐いてなお、憐憫の視線を向けてくる百合草。
そんな状況に俺は違和感を覚える。のどに魚の骨が刺さった程まではいかない、だが多分くっついている位の違和感。
「それに、英梨ちゃんが計画を立てるとなれば、ある意味では安心ですし…」
「は?どういう意味だよ?」
俺がジト目で言葉の真意を尋ねれば、百合草は自身の携帯電話を操作し画面を見せてくる。
「ありました。ほら、これらの記事ですよ。最近ブームになっている都市伝説」
「…へ~、都市伝説。ねえ~…」
「最近はこの都市伝説目的で色々と問題行動を起こす中高生が多いらしです」
「本当だ、行方不明になってたり、洒落にならない事件になってたりするな…」
「でも、英梨ちゃんならこういう危険な事には頭を突っ込まないはずですしね」
百合草から見せれた画面をのぞき込めば、確かに最近よく聞く記事が載っていた。
「曰く、生贄を捧げれば願いが叶うだとか、曰く、それは邪悪なるものを復活させる儀式だとか。ともかく、話の内容は記事によりけりですが、この話には聖地があるのですよ」
「聖地?こんなおどろどろしい物なのに、随分と似つかわしくない言葉選びだな?」
「さあ、その理由は知りませんが。ともかく、その聖地となっているのが帝京都にある一番高い山…ちょうど皆が羽虫のように声を上げながら見てたものですよ」
百合草はフッと視線を窓の外に向け、目的の物を指し示す。
百合草が指し示したものに目線を向けてみると、平野に位置している帝京都に吹き出物のようにそびえたつ山。そして今回の物語の舞台となる場所でもある。
呑気に、山を観察していると新幹線が帝京都につくといいうアナウンスが流れ始めた。それと同時に周りの生徒たちは一斉に降りる準備を始める。
「…そろそろ到着するみたいだぞ?」
到着のアナウンスが掛かってもなお、降りる準備をし始める気配がない百合草を訝しみ声をかける。しかし、当の本人はずっと外の景色を見ているままだ。
「お~い、お~い、百合ぐ―」
「亮君は…今回の修学旅行、変な事はしないですよね…」
突然こちらに振り返り俺の目を見て問いかけてくる。
………。
俺は百合草の問いかけに答えることができず、俺たちの間に気まずい空気が横たわる。
先ほどから壊れたカセットテープのように同じ言葉を吐き続けるアナウンスだけが無機質に響き渡る。
しばらくこの膠着状態が続くかと思われた矢先
最初に動き出したのは百合草であった。
「…いいです。ある程度のことは理解しました」
「なんだよ、いきなり…俺は真っ当に過ごす―」
「言い訳はいいですよ。あなたが私の質問に瞬時に答えることができなかったのは、図星だから…それが分かれば十分な収穫です」
ずいぶん痛い所を突いてくるじゃないか。
成程…俺は一本取られたらしい。対人における腹の探り合いは俺が得意とする分野だったんだがな…完全に気を抜いていた。
まあいい…気づかれてしまったことは仕方ない。どのみちこいつ等は俺のことなど考えることが出来なくなる位、忙しくなるのだから。
問題はない。
§
危ねえ!もう少しで新幹線に取り残されるところだった…
駅、到着ぎりぎりになって百合草に仕掛けられた心理戦のせいで準備時間が大幅になくなってしまった俺らは、新幹線から降りれるか否かのチキチキゲームを勝手に開催していた。
結果として、間一髪で新幹線から降りれたことに安堵してると、目の前から声がかかる。
「お? やっと降りてきたのかい?全然降りてこないから、何かあったんじゃないかと心配したよ」
もうすでに降車を済ませていた桜
隣でなぜか「ひっっ!!」という悲鳴が聞こえてきた。空耳だろうか?
「ごめん、ごめん。少し手間取ってな。同じグループの人は俺たちで最後か?」
とりあえず、遅れそうになったことを謝罪していると、横からふと人影が現れ、
「ああそうだ。これからは、もう少し早くしてくれ、じゃないと見て回る場所が減ってしまう。私は分刻みで計画を立てているからな。遅刻は厳禁だぞ?いいかまずはこの帝京都駅を11時13分に出てだな。そこから…」
いつもより、若干早口で、なおかつ言葉数が多い皐月が答え始めた。
え!? 皐月ってこんな感じの奴だったっけ?
聞いてもいない今日の予定をマシンガンの如く話し始めた皐月に若干引いていると、桜が耳打ちをしてくる。
「英梨はね、計画を立てることが好きなんだよ。今回の修学旅行も結構楽しみにしていたからね、多少人格が変わってしまうことには目をつぶってくれたまえ」
いや…皐月のそれは多少ではない気がするのだが…
クールで毒を吐いてくるいつもの皐月はどこだよ!返してよ!!!
いや、別に…返品されて毒を吐かれえも困るんだけどね…?
やっぱりそのきれいな皐月でいいや。
再び、未だに話し続けている皐月に目を向ける。
どんだげ楽しみだったんだよ…
皐月は髪を切りショートボブにしていた。ポニーテール可愛かったのになあ…残念。
なんかクラスでかわいい子が髪を切っているのを見ると、彼氏とか好きな人の好みのために、髪形を変えているのかなと変に勘ぐって萎えた経験はないだろうか。
別にBSSを気取りたいわけじゃない。でも、なぜか心の中心に残るもやもや感。でもなぜかそれが心地いことに気づく
そうして人は寝取〇れを知っていくのだ。
「英梨ちゃんもういいです。早くいかないと計画が狂っちゃうんじゃないですか?」
「お、そうだな。じゃあ行くか!!」
見かねた百合草が皐月に話しかけに行ってくれたお陰でようやく駅にホームから降りられそうだ。
そして残念だが、百合草とはここでお別れである。彼女は別グループで回るらしい。
「あなたも、頑張ってくださいね。英梨ちゃんの予定の組み方は容赦ないですから…」
すれ違いいざま不穏な伝言を残して去っていった。いや…今そんなことを言われても困るのだが…
かくして修学旅行は始まった。
ちなみに…空気になっていたのだが、霧島君も同じグループである。でもさっきからひとことも話していない。
どうしたんだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます