第30話 いつか胸を張れる日が来たら(百合草葵視点)

上手く逃げれると思ったのだが、どうやらそうは問屋がおろしてくれないらしい。


さっき、霧島くんに向けられたよりも遥かに怒りを表しているのが読み取れる。


でも、それはこっちも聞きたいことなのだ。勘弁してほしい。


「少し待て、彩。葵も気づいたようだが一体誰がこんなことをやったのか教えてほしい」

「そいつは、夏休み最終日に体育館倉庫でもトラップを受けったって言ってました。英梨ちゃんはビブスを片付けるために残ってましたよね?」

「百合草、余計なことを…」


そう言うと、英梨ちゃんは、目を瞑って思い出そうとしている。そしてゆっくりと目を開いて


「そうか…小鳥遊か、確かあいつ顔に怪我を負っていたがそういうことだったのか…」

「加えて、私はその…英梨ちゃんの机に土を詰めててまして…はい」

「確か、夏休み最初の日は机の落書きだったはず…もうその頃から気づいていたわけか…確かあいつは学校に来ていたな、いじめはそのときに気づいたのだろうな」


そう、私のやったことは尽くが違うものに変えられてた。それも最初から。始業式の時点で私は亮君に目をつけられていたことになる。


だったらなぜ


「あいつは私を助けたのか」

「彼は百合草を救ったのか」


「そもそも彼に関しては謎が多いからね…その観点からすれば、不思議ではない。そもそも、百合草だと気づいてなお泳がせていたのかについても、疑問でならないね」


桜さんは不満だと言いたげに、口を尖らす。


そうだ、あいつは最初から気づいていたでも、接触してきたのは、桜 彩さくらさやにボコられてからだったのだ


「まあ、わからないのはしょうがないかな、というわけで今この場で分かりそうな話をしようか」


何か嫌な予感がするのは気のせいだろうか?


「百合草、君が彼と付き合っているとはどういうことだい。彼は君みたいなゴミとは付き合うわけないじゃないか?あははっ、彼に何をした?」

「いや!、私は何もしていないです!本当です!」

「いいかい?彼はボクが、最初に目をつけたんだ。それを君みたいなものが汚すのには耐えられないんだ。せっかく見つけたんだ。彼はボクが、ボクのものなんだよ?彼のすべて、これからもだ!というのに君がいきなり掻っさらうなんて決して許されるべきじゃない!」

「ひ!はい!」


桜 彩さくら さやは瞳孔を開きまるで正気を失った人のように私に詰め寄ってくる。


それからは、私は根掘り葉掘り聞き出され、精神的にボコボコにされ、雑巾のように絞られた。


§


「やっと意識を吹き替えしたんですね。そこまで生に執着するなんて、執念深くて正直引きましたよ。黒い何かを連想してしまいます」


彼が意識を取り戻したと聞いて放課後、病院へ向えば、元気そうな姿を見てひとまず安心する。でも全身包帯で大やけどを負った彼は痛々しい。火傷の後遺症が残る部分もあるのだとか…


「そうか、そうかそれは大変だな。お前はそいつに、泣き叫んで許しを請うてそうだな。この動画みたいに」


そう言って差し出されたスマホの画面を覗き込むとそこには、英梨ちゃんに泣きながら土下座をしている私の動画が流れる。


え?なんで!?あの場にいたのは私と英梨ちゃんと桜 さy…まさか…


「ま、まさか、桜さんが?」

「そうそう、にしても無様だな~あはは、意識を取り戻して最初に見たときは、笑いすぎて死ぬかと思ったよ、まじで殺されるかと思った。」


桜 彩ああ!!そこまでするか?どんだけ頭にきてたんですか?!!敵は徹底的に潰すんですか?


幻滅されたんじゃないかと恐る恐るあいつを見ると


「それで、許して貰えたのか?」

「ええ、まあ、ハイ」

「そりゃそうだろうな!こんだけ懇願されては許さざるを得ないもんな!アハハハ!!!」

「くっっ……」

「まあ良かったよ、これで懲りたんならもういじめなんてクソダセえことはやめとくんだな」


優しい顔しやがって、顔が整って様になっている分余計に腹が立つ。


「それで…その…」

「?」

「いや、やっぱりなんでもn」

「やあ、どうやらやっと意識がもとったらしいね!」


いきなり扉が開かれて桜さんが部屋に入ってくる。まるでタイミングを見計らったように…


「おや?百合草もいるのか?珍しいじゃないか?」


この女!! 白々しい!!


「お?彩じゃん!わざわざな見舞いするほど暇なのか?まあ、ありがとう。あ~百合草に関しては…」

「それなら、分かっているよ。百合草とは、に、せ、の交際をしているんだろ?」

「まじか!?、よくわかったな~」

「ふふふ、君のことだからね。直ぐに気づいたよー」


嘘つけ!私に根掘り葉掘り聞き出したくせに!あんな鬼気迫る表情で迫ってきたくせに!


ひっ!!!!

そんな非難の目を向けているとギロりと桜さんに睨まれる


「どうやら、思ったより元気そうで何よりだ」


今度は英梨ちゃんが入ってくる。き、きまずい。


「何だ皐月も来たのかなんか悪いね〜」

「ああ、小鳥遊が記憶をなくしたらまた教えてあげないと思ってな」

「ザンネンでした、記憶は残ってまーす」

「それにしても、髪をバッサリ切ったのだな。…こうして間近で見るのは初めてか」


私一人でいたときよりも賑やかにになった病室。その中で、笑っている彼はたしかにかっこいいかもしれない。



§




英梨ちゃんや桜さんが帰ったあとにせっかくだから、訪ねてみることにした。


「あなたは、いつから気づいていたんですか?」

「何がだ?」

「私が…その…」

「最初っからだよ」


あいつは、食い気味に言う。


「幻滅はしてないさ。間違いは誰でも犯すし、お前はお前なりで苦しんでいたことも事実だ」


まあ、やったことは最低最悪だがなと続けていった。

私は、苦しかった。それは決して免罪符にはならない。でも理解してくれていたのは素直に嬉しかった。


「だから、これから頑張って。一個目の条件ちゃんと守れよ〜」


またねと簡単な挨拶をして彼の病室を出た。あいつも自分のこと失望してると思ってた。屑だと思ってるに違いないと。でも…


誰しも好きな人の前では大人しくなるのもだ。嫌われたくないから。


いつしか彼が言っていた。癪だかこれは認めざるを得ない。

自分が嫌だった。二番目になることが、英梨ちゃんの下位互換であることが。でも、もし自分に自信が持てたら、胸を張れるときが来たら、この気持ちを伝えよう。


「百合草…何を話していた…」


病室を出るとそこには鬼の形相の桜さんが待ち構えていた。やっぱりこの人は怖い。でも


「別になんでもないですよ…特に亮君と付き合ったことのないようなあなたにはね」

「へえ~、この前でちゃんとへし折ったと思ったけどまだそう言う気力が残ってたのかい?それとも彼に何かを言われたか…彼は本当に厄介なことをしてくれるじゃないか」

「よく考えたら、私のほうがリードしているので。哀れで、かわいそうな桜さんにやさしくしてあげようと思いまして」

「あっはっはあ!面白いことを言うじゃないか!」


そっからは看護師が注意をしにくるまで取っ組み合いになった。もちろんボロボロに負けたが、桜さんの頬を思いっきり引っ張ることができた。

ふふふ、ざままあ見やがれください!




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