第29話 1番になれなくても(百合草葵視点)
殺風景な教室、今はもう使われてないんだろう、まるで私の心のようだ。いつも私の周りにまとわりつく劣等感。いつもいつも私を苦しめた。締め上げた。
あいつの方が私より可愛い、優しい、何より人気もある。だから、学校で一番カッコいい人と付き合えば、一番になれる。そう思ってた。
扉が開く音がして振り返ってみれば、私の予想だにしない人が立って居た。そのことに不安を掻き立てられる。相手が起こっていればなおさら恐怖も湧くものだ
「桜さん?一体何の用ですか?」
「ああ、すまない。すこしお前と話したくてね。百合草……」
「随分と、口調が荒れて居ますね」
ここまでくれば、もう嫉妬すら湧かない。
何せ比べられないのだから。
それより問題なのは、そんな化け物とすら思うような人が自分に敵意を向けていることだ。いつもはつかみどころの無い口調であるが、今の彼女は明らかに怒気を含んでくる声色で話しかけてくる。
「誰のせいだと?お前、彼に何をした!!!なんであんなに傷を負っているんだ!!答えろよ!!!」
やはり本気で怒っているんだろう。口調もいつものような飄々としたものとは全然異なる。
亮君があの先生を屠り去った後、もちろん今回の事件に関して事情聴取をされた。
そして後日、聞かされた内容は、ダンジョンで知性を持った魔物が人間の生活圏に紛れ込んで生活していたという、衝撃的な事実だった。
勿論、表向きは不祥事を起こしたことによる罷免になっているが…口止めはされているのだ。
「それは答えられないと言っているはずですが?」
「わかった……ならば!!」
「彩、やめろ」
明らかに今武力行使しようとしましたよね…
そういって現れたのは、
私が彼を見ていたのに気づいたのだろう英梨ちゃんが彼を紹介する。
「ああ、霧島については、いい機会だからつてれ来たんだ…」
「いい機会?」
「ああ、霧島君もきたのかい。役立たずの君が何の用だい?」
やっぱりこいつは嫌われていたんだ。亮君と本堂先輩とのバスケの試合中妨害したのはこいつだ。その件で怒りを抱いていた。
まあ自己中のこいつのなんて眼中になかったが、桜 彩にここまで目の敵になっていることには興味が湧く。
「は?何を言って、俺は英梨を守るために役に立っていただろうが!」
「君がかい?そんなわけないだろ?反対に英梨を苦しめていたの間違いだ」
「彩。いい。私から言うべきことだ」
そう言うやいなや、英梨ちゃんは霧島に向き直った。なんで、ここでやるんだろうか?ほかでやってほしい
「霧島、今まで答えを引き伸ばしてしまってすまない。そしてこんな場所で答えを出すことになってしまったことも許してほしい。」
「ああ、それはいいんだけど.」
「答えだが…すまない霧島の想いに答えることは出来ない」
こいつ英梨ちゃんに告ってたのかよ。やはり自己中心的なやつであると再確認する。
「どうして、どうしてだよ!!俺は英梨のために守ってやって来たんだぞ!?」
「そうだな、それに関しては感謝してる。だか、恋愛感情になるとしたら別だ」
「それはどういう…」
「すまない、許せ」
「ふ、ふざけるなああ!」
うわーこいつ告白を断られて逆上かよ…終わってるな。これみたいな奴に好意を寄せれててるとか…
霧島くんは英梨ちゃんを突き飛ばそうとしたのだろう。しかし英梨ちゃん体に触れそうになった瞬間。霧島の体が吹き飛び壁に激突する。
「ぐはっ」
背中を思い切りぶつけ、苦しそうに息を吸い込んでる
桜 彩が何かをしたことはわかるが、一体どうやったのかにつては終始分からなかった。
天才の名は伊達ではないと再確認させられる。
「霧島くん、君はまるで考えがたりてないね。自己中心的で本当に浅ましい。英梨を助けた気になっているところは本当に気持ち悪い」
桜さんは霧島くんにキレている。霧島君は怯えているようだが、さっき私に向けられた殺意に比べれば月とスッポンも違いがあるだろう
「せっかく助けてやったんだぞ!クラスの悪意からもかばってやった!隠されたものに関してもゴミ箱を漁って必死に探したというのに!」
そう、私もそれに関しては疑問に思っていたことだ。しかしこの口ぶりでは霧島君ががあんなことをしたとは考えられない…じゃあ一体誰が…
今まで燻っていた謎に頭を悩ませていると、
「女子のいじめがあんなものだとでも?流石の私も馬鹿じゃないぞ?霧島、あれに関しては私も常々疑問に思っていた」
「は?」
「ふふふふ、それに関しては、ちょうどそこにいる百合草に聞いてみれば分かるじゃないのかい?百合草、君は英梨の持ち物をどのようにした?正直に話してくれるかい?」
さっきより、敵意が少なくなっているとはいえ、未だに鋭い目線で私を射抜いてくる。
「わかりました。」
それからは、私がやったことを嘘なく述べた。時々、桜さんの雰囲気が洒落にならなかったが…殺されずに済んだ
「聞いたか?霧島。いじめの主犯が言っていることだ。確かなことなのだろう。そして、私達が受けた、いや認識してる内容と全く合致しない」
「は?意味がわからねえ!そんな、酷くて惨いことはされてねえじゃねえか!そいつが嘘付いてる可能性もあるだろうが!」
「いや、これくらいされても不思議ではなかった。多分、葵が言っていることは確かなのだろう、そして誰かがすべていじめの内容を緩和していた。私達が見つけやすいように、わざわざな。」
でも、そんなことは可能なのだろうか?…私が言うのも何だが、徹底的にやっていたはずだ。それを毎回毎回、きれいに修復されるのには恐怖すら感じたのを覚えている。
そんな芸当、私が主犯であると最初からわかっていなければ…
そこで、私の脳内にある人物が浮かび上がる。合致する、そう考えればすべてが納得できる人が、一人…いつも私が、吐く暴言を受け止めてくれた人、意味も分からず私を救ってくれたバカが。
はっと、顔を上げてこのことを言おうとした瞬間
「百合草、口を開かないでくれないかな?そのことを言うのはボクが許さない。その人を守るためにもね」
「はい、わかりました」
いきなり、殺意を向けられ、反射的にYESと言ってしまう。
「わかったかい?霧島君。君が決してこのいじめに貢献していないとは言わない、だがすべてが君の功績ではないこともわかったはずだ。そして、ボクは君のその態度が、我が物顔で自分の功績だと言いはる姿が甚だ不愉快だ」
そう言って桜さんが睨み付けると、霧島くんは逃げるようにこの教室から出ていった。その姿に、少しスカッとした。亮君と本堂先輩の試合の時、亮君のシュートを邪魔していたもやもやもあったのだ。
「じゃあ、邪魔もいなくなったことだし、百合草次は君の番だ…」
げっ・・・
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