第21話 その日の夜
最終的にはその後更に3つのエリアを占領し俺の領地はエリア7つ分になった。計画通りに各種族を配置した所で暗くなって来たので拠点の部屋に戻って来た。
「この部屋でメシ食って、寝て、起きたら外では10日以上経ってるんだよな・・・」
ゲームの仕組みを思い出して、風呂に入りながら考える。目の前に映るのは見慣れた風呂場の天井、だけどその手や髪は見慣れた自分の物ではない。
「はぁ、まだゲーム開始から4日だぞ?なのに部屋の外に出たら80日以上?意味分かんねぇだろ・・・」
普通なら頭がおかしくなるだろう、だがこの状況になっても俺自身が狂う気配はない。むしろ仕事のストレスもなく、リラックス出来ているような感覚すらある。身体も痛くないし、認めたくないだけで子供の頃の無敵感に近い全能感だって感じている。
「これも神さんのお陰か?」
『プレイヤーの皆様が快適にプレー出来る環境作りに努めています』
「・・・そか」
不思議とそうシステムから言われれば納得してしまう。
ヴァンパイアになって眠る必要性は減ったが今までの自分では無くなるような気がしたので3食のメシと風呂、睡眠はしっかり取る。マイナスな感情はいつの間にかどこかへ行き、前向きな感情が湧いてくる、まだ始まったばかりだからそこに違和感を感じるが、もしかしたらそのうち何も違和感を感じなくなるのだろうか。
「他のプレイヤーの状況とか分かるの?」
『領地内にプレイヤーが存在しません』
「他のエリアのプレイヤーは?」
『エリア内に侵入されるか、侵攻を受けない限り隣接エリアにプレイヤーが存在するかどうかは分かりません』
「はぁ・・・」
分かってはいたが他のプレイヤーの動向を知る事は出来ないようだ。現状分かっているのは拡張した6つのエリアのうち、2つのエリアが隣のエリアからモンスターの侵入がない事。恐らく、そのエリアにはプレイヤーが居るのだろう。
「敵対勢力のプレイヤーなのか、味方勢力のプレイヤーなのかだけでも分かればなぁ」
ここまでの神AIとのやり取りで分かっているのは実際に侵攻しなければ相手の勢力が分からない事。更に直接接触する以外に相手の情報を得る手段はない。
実はこれは現時点での話で、将来的には諜報活動が可能になる未来が見えている。1つはそのままスパイを送り込む事、もう1つは諜報活動用のモンスターを使役する事。その外にもいくつかの可能性がAIから示唆されている。
「くそ、どうすりゃいいんだ・・・」
態度では悩んでいても頭の中では分かっている。敵なら排除するしかないし、味方勢力だとしても支配するしかない。俺がゲームをクリアする為の条件は相手を殺すか追放するか、支配するかの3つしかないのだ。
「殺しなんて出来るのかよ・・・」
現代日本の倫理観に染まった自分が敵だからと、ゲームだからと、相手を殺す事が出来るのか。それに耐えられるのか、不安で押しつぶされそうになる。しかし、その不安も長くは続かない。
「やるしかないんだよな・・・」
やるしかない。その結論にすぐに変わってしまう。
勿論、ゲームのクリアだけならば今のエリアだけで発展し、敵対勢力に対抗するという手段も取れる。しかし、ゲームの特性上それだけで勝ち残れる気がしない。人勢力であれば自分のレベルを只管上げて強さだけで生き残るという手段も取れなくはない、かなりの茨の道だがデモムービーではそういう描写もあった。
億千というようなモンスターの軍団に立ち向かい剣の一振りで山を割り、数百のモンスターを跡形もなく吹き飛ばす、隕石のような魔法で地表をぼこぼこにしていた魔法使いもいた。最終段階があのレベルだとすれば俺が今持っているエリアだけではとてもじゃないが耐えられないだろう。
モンスター勢力である俺には個としてあれだけの強さを持つ事は出来ない。位階を上げる事で似たような事は出来るかもしれないが人が持つ無限の成長システムには敵わないだろう。
いくら限界突破があったとしても勢力としての在り方が人とは違うのだ。そう考えると領地の拡大と、それに伴った数の力、文明の発展による力が必要になってくる。
すでに未来を見据えた種族の配置は出来て居る。時間は掛かるかもしれないがスタートダッシュは俺に許された最大のチートでもある。あのGPにはそれだけ圧倒的な未来を切り開く力があった。
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