第17話 閑話:イチカ

 私たちに過去の記憶というモノはない。気が付けば簡素な建物の中に存在していた。それと同時に『領地を発展させる』『領主様に従う』という曖昧だが絶対的な命令のような意思を持った。


 よく分からないが、分かる。不思議な感覚だった。同じ場所にいる同じ種族と協力し、この地を発展させ領主様に尽くす。


 自分たちに出来る事は何かイメージが湧いてくる。神のような領主様から啓示を受け、日々、見えるイメージに近づけるように行動する。


 まずは木を切り倒し、薬草を摘み、作物を育てる。魔法の練習をし、木の棒を振る。今はまだ出来ない事が多いがやるべき事は領主様が教えて下さる。私たちはそれに従って毎日を過ごすだけだ。


 ある日、領主様がお姿を見せて下さった。どうやら私たちから1人眷属として下さるようだ。私は絶対に眷属になりたいという強烈な感情を生まれて初めて感じた。


 私の祈りは届き、無事に眷属として頂く事が出来た。どれだけ幸せなのだろうか、自分の中の全てに色が付いた気がした。ご領主様に触れて頂いた瞬間から全てが変わったのだ。


「素晴らしいお力をお与え頂き、ありがとうございます。変わらぬ忠誠を御身に」


 ご領主様は奥ゆかしいお方なのだろう、私の中の何かが守って欲しい以上に、守って上げたいと訴えかけてくる。


 進化して出来る事が増えた。やるべき事もより鮮明に理解する事が出来る。私はこの集落全てを使ってご領主様のご期待に報いなければならない。


 まずは自分と同じレベルに同胞を引き上げる必要がある。その為には世界樹が必要だ。全てのエルフ、ダークエルフにとって大事なそれがあれば出来る事がもっと増える、ご領主様の求める場所までもっと早く届くだろう。


 妹となったヨツバと共にそう訴えかけるとご領主様はすぐに世界樹を植えて下さった。植えたという表現が正しいかは分からない、大きな木がいきなり現れ、それは以前からそこにあったかのように私たちに恩恵を与えてくれている。


 不思議だ、しかしご領主様がやる事は正しいのだ。それが当たり前だという事は考える必要すらない。今後多くの同胞が目覚めるだろう。そうすればご領主様は喜んでくださるはずだ。愛しいご領主様の為にも私は魔法を極めなければ。


 そしていつかご寵愛を頂きたいと思う。


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