第10話 やっと気が付いた

 チート過ぎて頭が追い付かないので掲示板で同じような状況の人がいないか確認しようとするがネットが繋がらない。サイトのメンテナンスの可能性もあるので一旦落ち着くためにシャワーを浴びてすっきりしよう。


「どうなんってだ全く・・・」


 服を脱いでいるといつものメタボ腹じゃなく、めちゃくちゃ引き締まったお腹が見える。意味が分からないが風呂の扉を開けて、正面の鏡を見た。


「・・・誰?」


 いや、ちょっと待って欲しい。本当に意味が分からない、なんかすごいイケメンの外人さんがいらっしゃる。指とかもすっごいスラっとして爪が長くて綺麗なんですが。あら、下は黒いのね。


「ってなんでやねーん!どゆこと?」

 

 脱いだからにはシャワーを浴びる。浴びながら考えるが頭がおかしくなりそうだ。一旦部屋着を来て、眼鏡を掛けて鏡を見る。そういえば眼鏡無くても良く見えるんだが。


 何度見てもおかしい。これは警察に相談か?いやなんと相談すれば?という無駄な事を考えつつも一旦着替えて家を出る。もしかしたらこれは夢で、いやまさか秘密組織に改造された改造人間?とパニックのまま取り合えず警察に相談しようと玄関を開けた。


「・・・・へ?」


 玄関の向こうは真っ暗闇の森でした。


 玄関を閉める、もう一度開ける、変わらない景色。


 兎に角人を探そう、そう考えて森に入る。家の前には道が出来ていて、それに沿って進んで行く。500m位進んだ所で海岸にたどり着いた。遠くに陸が見える、更に遠くの空は晴れているようで四方を見渡しても俺を中心に10kmくらいが暗く雲が掛かっているような気がする。


 そして俺はあり得ないものを見てしまった。目の前には50cmくらいのカニが・・・。意識を向けるとカニの上に『クラブ 位階:3』と浮き上がって来た。視界の端には見慣れたアクションコマンドが浮かんでいる。いくら顔を振っても消えない。消えろと念じたら消えてくれた。俺は走って家に戻りベッドに潜りこんだ。


「あり得ないだろ、こんなの絶対おかしいだろうが・・・あり得ないじゃん。あんなの見えちゃったらダメじゃん、もう絶対夢じゃないじゃん・・・」


 恐怖と混乱でどのくらいの時間をそうしていたか分からない。時計は動いているが窓の外は真っ暗闇、辛うじて遠くの空が赤らんでいる事から今は夕方の5時だという事が分かった。


 認めるしかないだろうな。俺はゲームの世界に囚われてしまった。あのリアルなムービーも滅茶苦茶な設定も壮大なスケールも神なら余裕で出来る事だろう。やる事は明確だ、まずは死なない事。ゲームの設定上俺の種族は不死、更に称号の効果で死ぬ事がなくなったのはかなり大きい。ゲームのクリア条件が分からないが引きこもって今のままゲームの終わりを待つという選択肢は取れない。GPに大幅な余裕があるとはいえ、ポイントの枯渇が敗北に繋がる可能性を排除できないからだ。


 死なない前提があったとしても領地の拡大と防衛の強化。最大限自分の身を守る努力をするべきだろう。クリア条件が一定の領地の獲得という可能性だってあるし、GPを貯めたらクリアという可能性だってある。ゲームが誰かにクリアされるまで終わらないという事が確定している以上は何が何でも生き残る。


 ゲームの情報から推測するに、最悪2000年はゲームが終わらない可能性がある。初期のワールド選択では地球の誕生から現代まで20個に分けられていた。そしてそのワールドが統合されて最終的に1つになるという事は分かっている。だから最低でも1つになるまでクリア出来ないと考えてもいいのではないだろうか。


 そうなった場合に俺は自我を保ったまま2000年も生きれるのか、薄々気が付いてはいたがゲームでの時間は既にリアルな時間経過に変わっているようだ。ワールド1を選んでスタートした人間がどのくらい居るか分からないがすぐ近くにプレイヤーが居てもおかしくはない、なぜ俺は仲間にリンクを飛ばしてしまったのか、出来れば彼らがこのゲームを始めていない事を祈る。


 大丈夫だ、俺はかなりのチートを手に入れている。死なないだけでもありがたいのに大量のGPまで持っているんだ。きっとクリア出来る。


・・・だが、クリアして現実に戻ったとしてどうなる?


 現実の俺には何の力も才能もない、金だってなければ夢も希望も持ってなんかいない。だったらいっそ割り切ってこの世界を楽しんでここを現実にしてしまった方が良くないか?


 暗い過去が蘇ってくる。実家が金持ちなら、イケメンなら、身長が高ければ、歌が上手ければ、足が速ければ、考えた事はいくらでもある。どうして不幸なままこんな事に巻き込まれてしまったのか。考えれば考えるほど暗い感情が渦巻く。どうして神は俺に何も与えてくれなかったのか。


 もしかしたらこの世界の神が俺に与えてくれたのかもしれない、自由を。希望を。


「やってやる・・・絶対にクリアするんだ・・・」


 俺はもう変わってしまっているのかもしれない・・・。

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