epilogue

19 epilogue












 真っ白だ。

 ここにはもう、白しかない……。



















「当然だ。一面雪で覆われている」

「……」

「テム、どうした? どうしても見に行きたいと言うから連れてきた。……これで満足しただろ。この村は雪崩に──」

「……たのか」

「だからどうした? もっとハッキリ言うんだ」

「こうなるって、知っていたの」

「ああ。知っていた。こうなるのが見えていた」

「いつから!」

「あの竜を倒した後だ」

「だから、あそこから早く立ち去ろうとしたのか?」

「それもあるが、一番はあの〝存在〟の捜索だ。嘘ではない」

「何で、助けようとしなかったんだ! もしかしたら、助けられたかもしれないじゃないか!」

「運命だからだ」

「〝運命〟で片付けるなよ! いくら何でも、人の命を助けるのが人間だろ!」

「私は人間ではない、〝管理者〟だ。本来の流れに戻す為に介入する際、違和が発生しない様にする為に、人間の模倣をしているだけだ」

「そういう事じゃ……!」

「そういう事だ。そもそも、この地方の人間達は、早かれ遅かれ全滅する運命だった。我々がどう手を加えようとも、無意味だ」

「なっ!? ど……、どういう事!?」

「本来なら、この地方の人間達は、三年前に全員亡くなっていた」

「え、何で……?」

「三年前、鉱山から巨大な魔石が見つかったという噂があったという、彼女の話を覚えているだろう」

「あ、うん」

「本来なら、その巨大な魔石が大爆発を起こして、この地方全てが消えてなくなるはずだったんだ」

「な!? そんな……」

「だが、改変が発生した。突如あの〝存在〟が現れ、竜にさせられてしまった」

「『させられてしまった』?」

「あの巨大な白い竜は、もともとはその巨大な魔石だ」

「そんな……!?」

「その改変によって、大爆発が起こるという未来が消えてしまった。代わりに、竜というこの世界には存在するはずの無い生物が蹂躙する未来になってしまった。しかも、竜から溢れ出る魔力によって、天候も雪だけになるという副作用つきでだ」

「そんな……。いやでも、その竜を倒したって事は、もう全滅するなんて事は、ありえないんじゃ……」

「死ぬ運命は変わらない。竜を倒した事によって雪が止み、急激に暖かくなった。それによって、三年以上も積もり積もった雪が溶け、雪崩が発生した。しかも、山だけでなくフロイル地方全体を覆う程にな。そもそも、竜がいなければ、雪が積もる事も無いし、雪崩など起きなかったんだ」

「だったら、僕が、竜を倒さなかった、こんな事には……」

「倒さなくても同じだ。その場合は、竜によって全滅する形になっただけだ」

「それなら、雪崩が来る前に避難するように言っておけば……」

「その事を話したとしても、信じてもらえない。その未来が見えた。例え信じてもらえたとしても、間に合わないだろう。普通の人間では逃げきれない速さだ。私のように高速で動かない限り追いつかれる」

「……」

「わかっただろう。いかなる選択でも、フロイル地方の人間は必ず滅ぶ運命にあった。そういう事だ」

「……」

「貴様のように、人間は基本的には幸せな結末を望む生き物だということは、知識として理解している。だが、世界は、人間の願いとは無関係の〝運命〟によって動く。本来あるべき、確定ではないが高確率で発生する事象──言い換えれば〝大筋が決められた結果〟だ」

「……そんな……」

「理屈も理由も関係無くそれこそが全てであり、あの存在のような逸脱した不条理が発生する場合を除いては、決められた結果が発生する。テム、貴様がどう行動しようが、受け入れようが受け入れまいが、結果は変えられない。それだけの事だ」

「……」

「もう、私から話す事は無いし、反論を受ける無駄な時間は無い」

「……」

「お前は、はやくあの存在を見つけ出して、その不老不死を無くす手掛かりが欲しいはずだ、そうだろう?」

「……」

「行くぞ」




 これで、良かったんだろうか。

 正しかったんだろうか。

 竜を倒した事で、村の人達は死んでしまった。

 でも、倒さなければ、竜に殺されていた。

 どうすれば、良かったんだろう。

 千年以上も生きていたのに、答えが見いだせない。

 僕は後悔する。そして、罪悪感に苛まれる。

 取り返しがつかない事をしてしまった。

 だけど、どんな贖罪しょくざいも無意味だ。

 ──祈るしかない。

 エイは、天国も地獄も存在しない、と言っていた。

 でも、それでも、僕は祈る。

 みんなが、天国にいけますように、と──。




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Ⅳ:01 ─白い世界の中で、眠れ─ 松田はるき @mtd_hrk_kkym

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