第2.5話 メスガキちゃんの好きな人
私には好きな人がいる。
小学校の友達、カナちゃんのおにーさん。
小さい頃の私は、おどおどしている気弱な女の子だった。年末年始やお盆に親戚の集まりに参加すると、いつも「要らない子」「男の子だったらよかったのに」なんて言われ続けたせい。最初は意味なんてわからなかったし、お母さん達が私の耳を塞いで守ってくれていたから深くは考えなかった。
成長するにつれてその意味を知った。親戚の人たちは男の子が欲しかったのだ。私のお母さんの実家は、女から女に代々継いでいる女系。狙ってそうしているわけではなくて、家の家系は女の子しか産まれない。
そんな中、まだ私がお母さんのお腹の中にいるときに、産婦人科の先生が私を『男の子』と勘違いしてしまった。親戚は喜んでその日のうちに祝ったらしいけど、実際に産まれたら『女の子』だった。親戚から聞こえてきた話だと、私が産まれた日はお通夜みたいだったらしい。
親戚に会うたびに嫌味を言われ続け、どんどん大人が怖くなった。道を通り過ぎる大人も怖いし、学校の先生も怖い。気がつくとおどおどとした気弱な子になっていた。
特に男の人は怖い。何を考えているのか分からなくて、私とは全く違う別の生き物みたいですごく苦手。私がおどおどしているとギロッと睨んでくる。あの目で見られると蛇に睨まれた気分になって生きた心地がしない。それは今でも変わらない。
だからカナちゃんにお兄さんが居ると知って最初は遊びに行くのがすごく怖かった。
でも、初めて会った時、お兄さんは優しく挨拶をしてくれた。
私をまっすぐ見ても親戚の人たちみたいに睨まない。カナちゃんの言う通りの優しいお兄さん。私がおどおどしていても優しくしてくれた。廊下でばったり会って、怖くて動けなくなってもそっと挨拶をしてくれた。お兄さんは他の大人とは違う。
お兄さんに会うためにカナちゃんの家に遊びに来て、気がついたらお兄さんのことが好きになっていた。
そんなある日、お兄さんの部屋が少しだけ開いていて、ついつい中に入ってみた。机の上には片付け忘れた漫画が置かれていて、私によく似た女の子が表紙に描かれていた。罪悪感はあったけど、気になってこっそり持ち出してしまった。自分の部屋でゴロゴロしていたカナちゃんと一緒に見た。
描かれていたのは吊り目の小学生。髪の両側を軽く結んでいて、それ以外はそのまま垂らしている髪型の女の子。ちょっと…ううん、すごく強気で大人にも文句を言うタイプ。いつもおどおどしている私とは真逆の性格だ。
「お兄ちゃん、こんな子が好きなのかな?」
「えっ…そ、そう…なんだ…」
「にししっ。チカちゃんやってみる? お兄ちゃんのこと好きなんでしょ?」
「私はそんな…えっ、カナちゃん待って!?」
最初はそんな感じで、カナちゃんに強引に髪型を弄られた。少し垂れ目で全然似てなかったけど、それがきっかけでメイクも覚えて吊り目になって、漫画の女の子に似た見た目になった。このチョコレートブラウンの髪色は変えられなかったけど、それ以外は完璧に漫画のメスガキちゃん。
今日も吊り目メイクは完璧。
髪型もお兄さん好みのツーサイドアップ。
鏡を見てからぎゅっと目を閉じる。気分を入れ替えて吊り目になった目を開ける。今の私は、あの漫画に登場していたメスガキ。
「今日もバッチリじゃん」
「…うん、ありがと。またねー、ばいばーい。私、おにーさんのとこ寄ってから帰るね」
「チカちゃん、がんばっ!」
廊下でカナちゃんに背中を軽く叩かれ、私はおにーさんの部屋のドアを開けた。この前は、おにーさんが寝ていたから全然話せなかったけど、今日はいっぱい話せるといいな。
「やっほー、おにーさんっ♡ 遊びに来てあげたよ」
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