第2話 寝たフリと部屋掃除
「ふう、結構大仕事だったなあ」
俺の部屋にあった『ウス=異本』と『エロホム様』を整理して友達に譲っていたら、気がつけば昼過ぎになっていた。ちょうどいい機会だから、このまま部屋の掃除をすることにしたのだが、掃除をするとついつい懐かしい漫画に手が伸びてしまうわけで。数分後、気がつけば足の踏み場もない散らばった部屋の中で漫画を読んでいた。
「あれ? 次の巻が抜けてる。たしか次ってメスガキが出てくる…」
「またねー、ばいばーい。私、おにーさんのとこ寄ってから帰るね」
おいちょっと待て、玄関に靴なかっただろっ!
噂をしたら廊下からメスガキの声が聞こえてきた。遊びに来ているのがわかっていたら友達の家で時間を潰したのに。俺はこの前と同じように寝たフリをした。
「やっほー、おにーさんっ♡ 遊びに来てあげたよ」
その声と同時にメスガキが足を踏み出したようで、床に広げていた漫画の山が崩れる音が聞こえてきた。
「わわっ、どうしよ崩しちゃった…」
目を閉じているせいかもしれないが、メスガキの驚く声が新鮮で、ついかわいい女の子の声に聞こえてしまう。いつもこんな感じなら可愛げがあるものを。だが、すぐにいつもの調子に戻ってしまった。
「うーわっ、きったない部屋。汚部屋だー。こんな部屋の中で平気で寝れるなんて、おにーさんどうかしてるって」
仕方ないだろ。お前が来るとわかっていたら掃除なんてしなかった。言い訳をしたいが、ここで声を出すわけにはいかない。寝たフリの効果を確認するためにも、今回も寝たフリを徹底する。足音が近づいてくる。音が止まると顔を覗くような気配を感じた。
「おにーさんって体は大っきいのに子供なんだね。カナちゃんに全然にてなーい。カナちゃんはかわいいのに、おにーさんは…ふふっ」
その含み笑いはなんだ。ブサイクとでも言いたいのかよ。次の瞬間、冷たくて柔らかいものが頬に触れた。恐る恐るツンツンと。目を閉じているから感触だけでの想像だが、指で触られたのだろう。くすぐったくて、つい体を動かしてしまいそうになる。
耐えろ、耐えるんだ俺!
そしてメスガキ、お前は早く帰れ!
その願いが通じたのか、俺の頬から指が離れた。
「…目、覚めない」
やっと帰るのかと思えばなんのことはない、次の獲物を探していただけだった。メスガキは俺の手をおもちゃのように持ち上げた。俺は起きていると思われないために、腕の力を抜いてされるがままに動かされる。
「おにーさんの手、私よりおっきい。男の人だからかな…ごつごつしてる」
「爪が伸びてる。おにーさんってズボラ〜」
なんでそんな細かいところまで見ているんだ。伸びてきたから明日切ろうと思っていたんだよ。なんなら今すぐ切ってもいい。だからメスガキよ、早く帰ってくれ。そんな心の叫びなどお構いなしに、メスガキが俺の頭を撫でてきた。ゆっくりと撫でまわしてくる。
「うわぁ、ゴワゴワ。私の百倍硬いかも。おにいさんって頭を洗うときにリンス使っているのかな?」
百倍はないだろ百倍は。リンスは使わないが、そもそも小学生と大人の髪を比べるのが間違っている。子供の髪は、産まれたばかりで紫外線の影響を受けていない。だからサラサラで柔らかいのが当たり前。
「おにーさんって、やっぱりズボラ。ボラボラだ〜」
ボラボラってなんだよ。メスガキはしばらく俺の頭を撫でると、髪の毛を一本掴んで引っ張った。
「あっ、一本だけ白髪はっけ〜ん。おにーさんって、実はおじいさんだったの?」
マジかよ。俺に白髪なんてあったのか。年寄りじゃなくてもストレスで白髪は生えてくる。きっと原因はお前だよメスガキ。だから早く帰ってくれ。そうすれば俺は白髪なんて生えてこないはずなんだから。
「お・じ・い・さんっ♡」
いきなり耳元で囁かれた。なんとか身動きせずにやり過ごせたが、ゾクッと体が反応してしまった。いきなりは卑怯だろ。
「…まだ起きない。最近のおにーさん、つまんない」
メスガキはそんな捨て台詞を吐くと、俺の部屋から出ていった。足音が遠ざかり、やがて聞こえなくなる。それはすなわち俺の勝利を告げていた。
寝たフリ最高っ!
「よっしゃあ!」
その場で立ち上がりガッツポーズをすると、足元の漫画の山が崩れた。
「…っとと、忘れてた。掃除の続きしないと…」
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