第15話

布団に潜り込むと早速瑞貴が俺の腕を伸ばしてきてまたもや勝手に腕枕を製造しそこに頭を乗せて抱き着いてきた。


「ちょっと落ち着けって。腕枕くらい言われんでもしますっての。」


「類知らないだろうけど俺はめちゃくちゃ寂しがりだよ?この2日間類の部屋にいるのに熱出したせいでまともに相手にされることもなく一人で寝てたわけだからそりゃ寂しいわけでして。」


「それはわかってるし俺も寂しかったけども、それが嫌なら早く治して元気になってください。」


言いながら顔中にキスの雨を降らせていたらくすぐったそうにしている。


「はー、しかし瑞貴があと10センチ小さけりゃもっとコンパクトで抱き心地いいのに、178ってデケーんだもん。」


「ん?足削って身長縮めようか?」


などと恐ろしい事を言うので半目になって答えた。


「そこまでしていらんわ。それに身長あろうがなかろうが好きだからどっちでもいいよ。」


「俺は逆に類が身長ある奴で良かったなと思うよ。俺より身長高い人っているようで実はそんなに居ないから、類の身長って俺にはベストオブベスト。」


「あー、確かにそうなのか。」


「でも俺まだ身長微妙に伸びてるよ?」


などという恐ろしい事を言われて泣きたくなってきた。既に高身長なのにまだ伸びているだと…?それは俺にとっては非常に有難くない由々しき事態である。


「やめてくれ、そこで成長は止めていただいてよろしいか。」


「いっそ類の身長超えたら俺が類をリードする立場に…。」


「ひぃっ。やめろやめろそれは困る。」


「類さ、」


「んー?」


改まって名を呼ばれ何かと思ったら、瑞貴がニッコリ笑顔で爆弾発言を投下した。


「俺に風邪伝染されたくない?」


「……それはどういう意味かな?」


「いや別に?俺から風邪伝染されてみたくないかなって。」


…つまりは俺とキスだのなんだのがしたいと。

そういう事だと思ったのでキッパリお断り申し上げた。


「伝染されたくない。今こうしてる時点でかなり危険なのに、これ以上のことしたらマジで伝染る。」


「…チューだけとか?」


「誘ってくんな煽ってくんな。」


「ケチー。エッチもお預けされて生殺しなのにチューもダメとか。」


「それはまた今度な。そのうちちゃんと抱くからそれは覚悟しといて。俺は1年半ぶりとかだから多分止まんないだろうし、痛みとかあんま与えたくないから無茶はしないけど多少荒ぶるとは思うし。」


言って目元にキスをして顔を見たらほんのり照れているのでああもうだから照れる恥ずかしがるは俺の大好物だと何度言えば。もう反応がかわいいのだ。だから少し追い打ちをかけることにした。瑞貴を仰向けにして上から見下ろしてその瞳を凝視して真顔で言ってやった。


「……まぁ、抱くっつってもおまえ男だし流石にローションないと無理だと思うから、今度ドラッグストアかネットで買っとくな?ローションも色々あるけどどのタイプにしよかっかね。あとゴムも買わないとダメだし。…うん、まとめて色々用意しとくな??あっ、ローターとか買う?」


「…!!!」


にっこり笑って言うと俺の思う壺で一気に赤くなっている。はぁ愉快愉快、この反応が見たくて俺は瑞貴をいじめたくなるのだ。こう言ってはなんだが普段クールで塩対応な瑞貴様は俺たちバンド隊をいじめ散らかしてくるので、俺が仕返し出来るとしたらそれくらいである。俺以外のバンド隊が知らない瑞貴の顔が見れて俺は得しかないわけだが、抱いたらどんな顔するのかとか想像だけで俺からすると美味しいわけである。


解熱剤と風邪薬がちゃんと効いてくれているのか、今朝病院に行ったばかりなのに素晴らしい。若いというのはただそれだけで免疫力が高いので、治りもまた早いのである。だからこのまま大人しくしていてくれれば言うことはないのだが、まぁ瑞貴がそんな大人しくしているはずがなくてだな。もそもそと俺の腕の中から2本の腕を伸ばして俺を仰向けにさせてきて見下ろされた。


「…なに、大人しくしてなさいよ。」


「もうじっとしてんの飽きた。」


そう言う瑞貴の顔が降りてきて、フイ、と横を向いて躱した。


「…なぜ避ける……。」


「だって風邪伝染されたくないもん。」


「ちょっとだけじゃん。」


「絶対ちょっとで終わらんだろ、ガッツリとチューする気満々だろおまえ。」


「…ソンナコトナイヨ?」


「今ニュアンス的に絶対カタカナだった。そんな事あるあるだわ。ヤダもん瑞貴に無理やりスイッチ入れられて一人寂しく抜いてくるとか。」


言うとムスッとした瑞貴が俺の手に自分の手を重ねて無理やり押さえつけてきた。特にやり返すことはしないがため息をついた。


「もー、大人しくしてなさいよー。」


「無理。チューだけしていい?」


「ダメ。我慢して。」


「…だって無理だもん。」


「あのな、無理なのが瑞貴だけだと思うなよ。俺も我慢してるんです。」


「知るかそんなん。」


「あっこらテメ、」


そのまま顔を降ろしてきた瑞貴を避けきれずにキスをされてしまった。こうなると俺も意志薄弱でダメだなと思うのだが抗えなくて。しばらく瑞貴主導でキスをされていたのだが我慢の糸がぷっつりと切れて身体を反転させて俺が上になった。


「…ダーメだってんのにコイツは……。俺を煽るのほんと上手いね?」


言って顔を傾けて、唇で唇を押し開いて重ね、しばらく夢中になってしまった。ハッキリと申し上げてただの自爆である。没頭すれするほど生殺しが酷くなるので唇をほどいて至近距離から見つめたら瑞貴が熱に浮かされたみたいなトロンとした表情をしていて、もうそれですら煽りである。なので目元に一瞬キスをしたあと横に倒れてまた瑞貴を抱き込んだのだが、不服そうな瑞貴が文句を言っている。


「…ねぇこれでなんでセックスに発展しないのか意味がわからないんだけど。」


「だからしねぇっての。俺だって我慢しとるんじゃい。いいですか、瑞貴さんは風邪っぴき、加えて俺側になんの用意も出来てない。以上の理由から抱く事はできません。俺じゃなかったら抱いてるのかもしらんけど、残念ながら俺は無理っす。だから2人で生殺されてような?」


「はーーー…、つらい…。」


「もう少し落ち着きな、余裕もってないとしんどいと思うよ?」


「チッ、余裕ぶりやがって…。」


ガラの悪い表情で俺を睨んでくるが考えを変える気は無い。なので瑞貴の頭を撫でておいてご機嫌を取るために短いキスを何度も何度も繰り返した。


「怖いからその顔で舌打ちすんなっての。もっとかわいいのがいいです。」


しばらくそうやって瑞貴のご機嫌を取っていたらだんだん落ち着いてきたのか、難しい顔から笑顔を見せるようになってくれて。物静かではあるがよく難しい顔をする瑞貴に対して俺がのんびりしたタイプなので、瑞貴も俺につられてのんびりタイプになってくれればいいなとも思うが、猫みたいな気まぐれな性格も俺にとってはかわいいが過ぎるのでまぁそれはそれでよし。言っておくが出会った時から瑞貴のツンなど一切通用しない俺は対瑞貴専用最終決戦兵器であると自負している。そうこうしていたら瑞貴の傍だからというのもあるがやはりベッドというのは寝心地が大変によろしいもので眠くなってきて。


「ちょっと寝ていい?眠くなってきた。」


「マジで言ってんのそれ。まぁいいけど…。」


「ごめん眠い。仮眠するから一時間くらい経ったら起こして。」


「はぁい。」


そこで瑞貴を抱き枕にしたまま眠りに落ちた。

結局瑞貴の風邪は本人がちゃんと大人しくしていてくれたおかげできっちり二日間でほぼ治った。優秀である。


風邪を引いてから二日目の夜。つまり墓参りから二日目。熱がほぼほぼ下がったので起きてきた瑞貴がリビングにやって来た。


「類、」


「ん?」


「もう熱だいたい下がったからパンチのある食べ物が食べたいです。」


「お、そかそか。んじゃ焼肉でもする?」


提案すると頷いた瑞貴が口元に手を持ってきて空を見て。


「じゃあお肉いるよね。あとサンチュとか。焼き野菜も食いたいんだけどここん家ある?」


「サンチュはないけどサニーレタスあるからそれで代用するとして、他に野菜は色々あるよ、大丈夫。肉もわりといいやつ冷凍してるから、それ使うか。」


「うん。明日は銀行行って3億おろして、そのままユウトのご両親のとこ行って墓参りの許可取ったら墓参りも行く。」


「ん、わかった。そうと決まればさっさと食って寝ろ、まだ完治はしてねぇから、肉食ったらちゃんと寝な。」


「うん、そうする。」


そんなわけで急遽焼肉に決まり、準備をして2人して結構な量を食べて食事は終わり、瑞貴の風呂も解禁してやって存分にスッキリしてもらった。

その夜俺もベッドで寝ることにして瑞貴の横で存分に爆睡させて頂いた。




第15話 完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る