第13話

瑞貴がここへ来て4日目の朝。アラームの音で目が覚めてスマホを手に取り音を止めて起き上がった。


「ふぁ…。ーーーっし、瑞貴の様子見てこよ。」


顔を洗ってからグラスにアイスコーヒーを注いで、それを持ち寝室に向かって静かにドアを開けたら大層寝苦しそうな表情で眠っている瑞貴。

この顔色だと熱が上がってる気がするなぁ…。ベッドに腰掛けて枕元に置いてあるタオルで顔の汗を拭いてやってからパスパスと掛け布団を軽く叩いたらうっすらと目を開いた。


「…おはよ、類。」


「おはよーさん。ちょい熱計って。」


「ん…。」


体温計を手渡して計って貰った結果。

熱が1番下がっているはずのこの時間帯で既に38.9°C。


「こーりゃだめだ。しんどいだろうけど起きて、内科行くぞ。」


「まってロキソニンあるでしょ、それくれ…。」


「まだダメ。先に病院行って診察してもらってから。ほい起きて。」


「んんんん、だっる…。」


もそもそと緩慢な動きで起き上がった瑞貴は大層しんどそうで、まずはアイスコーヒーを差し出した。


「ん、飲む?」


「飲む‪。ありがとう…。」


その後2人でリビングに移動してなんとかかんとか着替えてもらい、フラフラの瑞貴を車に押し込んで出発して、近くの内科まで行って診て貰った結果、言われずとも分かってはいるが風邪。なので風邪薬と抗生剤、そして解熱剤を処方してもらって帰ってきた。


「類、」


のそのそと部屋着に着替えながらフラフラしている瑞貴が話しかけてきたので何かと思ったら。


「ん?」


「銀行行かないと…。あと現金突っ込むジュラルミンケース買わないと…。」


「ジュラルミンケースはもうネットで買って明日届けてもらえ。つかその辺のスーパーの袋に適当に入れときゃいいんだよあんな奴にくれてやる金なんか。んで期日が3日以内だから明明後日までに届けりゃオッケー。いまはとりあえず寝ろ。」


「………よく頭回るなぁ…。」


「あん?そりゃ俺は熱ないからな。ほら寝室戻りな、朝メシ作ってくるから。病人食で強制的にお粥にするから、消化いいもん食え。」


「……………えっと…。」


「あぁもう、難しいこと考えんな、熱上がる。とりあえず食って寝ろ、そんだけ。ほらおいで。」


なんだかもうふわっふわして何が何だかわかっていない瑞貴の手を握って寝室まで誘導してベッドに押し込んだ。俺は俺でお粥を炊いているうちに洗濯物を洗濯機に突っ込んでおき再びキッチンで調理開始。


「…お粥っつっても別に白粥である必要はねぇよな…。アイツ梅食えたっけ?無難に玉子粥にしとくか。」


言いながらお粥を炊いている1人用の土鍋の横で味噌汁を作り始めた。そしてだんだん粥が出来てきた頃に溶き卵を回し入れて混ぜて完成。俺は俺で後で食うので今はいい。土鍋に蓋をしてトレーに載せてまた寝室にやってきたら暑いのか羽毛布団を捲り豪快に腹を出して足も投げ出して寝ている。


「すんげー寝相…。おもろいから写メっとこ…。」


由良瑞貴様にあるまじきあまりにもな寝相だったため本人が元気になってからそれを見せるためにスマホで写真を撮っておき、起こした。


「…おーい起きて、薬飲む前にお粥食って。」


「んぁ…。」


相変わらず緩慢な動きで起き上がった瑞貴は頭が重いのかフラフラしていて。ボーッとしてはいるが食べて頂かないと薬が飲めないのでそこは頑張ってもらうとして、土鍋の蓋を取って横に置いた。


「ほら、食え。熱いから気ぃつけてな。」


「………いたまきます。」


「なんて?いたまきます?」


ふわふわなせいで語彙まで面白くなっているので突っ込みたいがそれはやめておき、テーブルの向かいに座り瑞貴を観察した。

食べているうちに少し覚醒してきたのか、熱い熱いと言いつつもちゃんと食べてくれているので一安心。食べ終わりそうな頃に見計らって紙袋から解熱剤と抗生剤、そして風邪薬の粒剤を一緒に置いておいた。すると瑞貴が口を開いた。


「…しかし類はほんとに面倒見がいいねぇ……。甲斐甲斐しい母犬のようだ…。」


「誰が犬だふざけろよ。失礼な事言ってないでほら、食い終わったら薬飲め。」


「…飲むけど、飲んだらちょっとだけくっついていい?もう無理、類が足りない。」


熱でずっとふわふわしている瑞貴がそんなことを言うので少し面白くなってケラケラ笑いながら頷いてやった。


「いいよ、でもちょっとだけな、今布団の中で瑞貴とくっ付いたら絶対激烈に暑いから。」


白い顆粒剤の中に解熱剤と抗生剤をポトッと落として水で飲み込んだ後、しんどいくせにやたらキリッとした顔で腕を伸ばしてきた。


「ん。」


「主語を言え、せめて。」


「…I'm short of you, so please hold me quickly…….」


「……。」


虚ろな目でそんなことを言われた。意味合い的には要するに「お前が足らん、はよ抱っこしろ。」である。しかしなるほど、熱が出るとコイツは分かりやすく甘えてくるのか、かわいい。俺自身が頼られるのも甘えられるのも好きなので、こうも素直に甘えてくれるとやはり嬉しいもので。瑞貴を連れてベッドに移動して2人で潜り込んでご要望通り抱きしめてやったのだが、この時点でもう暑い。寒がりな俺でも暑い。


「んあぁ、あっつぅぅ…。」


「はぁ、安心する…。」


ぎゅうぎゅうとしがみついてくるのはかわいいがなんせ暑くて俺だけ背中側を布団の外に出して外気に触れさせておいた。昨日弱っていた瑞貴は本当なら一緒に寝たかったであろうに、熱があったとはいえ一人にさせたし、これぐらいなら応えてやらねば可哀想というもの。


「はよ治そうな、じゃないといつまでもくっつけんよ?」


「……いやだ…。類が暑いのなんかどうでもいいからちゃんとくっついてて…。」


「どうでも良くねぇ、俺が干からびる。俺寒がりなのにそれでも暑いもん。」


「類なんかいい匂いする。これが加齢臭か…。知らなかったな、加齢臭ってもっと臭いのかと…。」


「おいやめろ加齢臭とか。俺はまだそんな臭い放ってねぇしいい匂いな時点で加齢臭じゃない。」


「ふ…。」


そこはもう断固否定である。まだピチピチの27歳なのに加齢臭はいくらなんでも酷すぎる。具合が悪いはずのなのに、こんな時でさえ毒が冴え渡る。どうせならもっとかわいいことを言ってくれ頼むから。

あまり喋っても無理をさせるので瑞貴の言葉には適当に答えておいたらやがて静かな寝息を立て始めた。


「ふーーー…。」


頭に手ぐしを通して撫でてやったあと静かに俺だけベッドから出て寝室を出てリビングに戻り。


「…さて、ヒマになったな。とりあえずメシ食うか。」


ヒマとは言え瑞貴が熱を出して寝ているのでどこかに出かける訳にも行かず、何をしようか考えてしまう。朝食は適当にサンドイッチを作って食べ、暇なのでDVDでも見ようと思い見たい映画のDVDを持ってソファに移動してきた。

とは言ってもここにあるDVDなんか全部見終わったものなのでながら見である。その中でもお気に入りの映画を1本流し始めた。



第13話 完



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