第12話

「けほっ、げほげほっ。」


ぱち、と瑞貴の咳で目が覚めた。

…ってか、蒸しあっつうぅぅーーー!!?何ここ真夏のジャングル!?

そこでバチッと完全に覚醒して慌てて起き上がり瑞貴を仰向けにさせて額に手を当てたら凄い熱だった。あぁ、やっぱ風邪引いたかー…。てか今何時だ?思って部屋の時計を見たら夜9時過ぎ。起き上がってリビングに戻り冷えピタと体温計を持ってまた寝室に戻り、可哀想だが瑞貴を起こした。


「瑞貴、ちょっとごめん。熱計ろ。あと冷えピタ貼るぞ。」


「……ん、え?」


うっすらと目を開いた瑞貴の額の汗を手元のハンドタオルで拭いてやって、冷えピタをセロハンから剥がしてその額に貼り付けた瞬間にカッと目を開いた瑞貴が叫んだ。


「痛い!いや!!」


「………。」


そう叫んだ瑞貴は冷えピタを剥がしてペいっと遠くに投げ捨ててこちらをギンっと睨んだ。


「俺に冷えピタを近付けるな。冷たすぎで痛くて嫌い。」


「そ、そこまで嫌う人初めて見たわ…。とりあえず熱計って。」


「え?」


「熱あんの。ほら。」


言って体温計を瑞貴に手渡して計測開始して30秒後、計測完了の音がして脇から体温計を取った瑞貴がそれを見て。


「………。」


「何度?」


「37.5°Cくらい。平気平気。」


言ってピッと体温計を切って俺に返してきたのだが。


「嘘つくなよコラ、何が37.5°Cだこのボケ。体感だけでも38.5°Cはあったぞ。正直に言わないならもっかい計って。」


「………ごめんなさい38.7°Cです。」


いきなり素直に白状した瑞貴だが、かなりの高熱で俺は嫌な顔をした。


「めちゃくちゃ高熱じゃん。もう寝とけ。明日内科行けよ。」


投げ捨てられた冷えピタを拾いながらそう言うと瑞貴がゴネ始めた。


「病院嫌だ…。」


「言うと思った。ならもう俺が連れてく。それに風邪薬飲まんといつまでも治らんよ?」


「ロキソニンで熱下げたら動ける。」


「屁理屈を捏ねるな、その風邪菌を周りにばらまいて歩く気か。」


「マスクする。」


「そうね、それは大事。でも連れてくからな。」


「………。」


反論をやめた瑞貴の頭を撫でておき、俺は俺で立ち上がった。


「とりあえず寝とけ。なんか食えるか?食えそうならお粥か雑炊くらいなら作ってくるけど。」


「……おにぎり食べたい。」


「おにぎりね。中身は?」


「シーチキンマヨネーズか牛肉のしぐれ煮のおにぎり。」


「…あの、大変申し訳ないんですけど手軽に作れるおにぎりにしてくれます?しぐれ煮に至っては時間かけて煮込んで冷やすという工程踏んでまで作らにゃならんのだが。」


言うと熱のせいで真っ赤になった顔で小さく笑った瑞貴。


「嘘だよ。なんでもいい、…普通に塩おにぎりとかでもいい。」


「ーーーはぁ、素直でかわいいわね………。」


「は?」


「なんでもない…。んじゃ作ってくるから待ってて。先に水持ってくる。」


「アイスコーヒーがいいです。」


「はは、了解。」


注文を承り寝室を後にしてキッチンと繋がっているリビングに戻りまずはアイスコーヒーを作って持っていき、続いておにぎりを作るべく米を炊いていなかったのでレンチンで食べられる白米を3つ取り出してきてレンチンしておき。


「さーて、中身どうすっかね。」


リクエストのシーチキンマヨネーズはなんとか作れるから作ってやるか。あとは明太子と、そう言えば高菜漬けがあるのでその三種類で作ってやろう。あと大根の味噌汁。

冷蔵庫からツナ缶と明太子と高菜漬けを出して、まずはシーチキンマヨネーズを制作していたらレンチンが終わったので白米をボウルに入れ少しだけ塩を混ぜこみ、中身を入れておにぎりを3つ作った。それだけだと食べるのがしんどいかもしれないと思い一応暖かいお茶と漬物も用意してトレーに載せて寝室にやってきたら盛大に咳き込んでいたので慌ててトレーをテーブルに置いてコーヒーを飲ませた。


「はー、苦しい。風邪めんどくせぇ…。」


「そんな事言っても仕方ねぇべ。真冬に外で冷水浴びたら誰でも風邪引くと思うけど。んでおにぎり作ってきた。食える?」


「食える。食欲はある。」


「はは、それならすぐ治んだろ。」


瑞貴にパーカーを手渡して羽織ってもらい、寝室にもあるテーブルまで移動してもらった。


「いただきます。わざわざお味噌汁までありがとね。」


「どういたしまして?食べたら食器は置いといて、後で回収しに来るから。」


もくもくとおにぎりを食べる瑞貴がじっと見上げて来るのだが、熱のせいで目が潤んでいてドキッとした。


「どこ行くの?」


「え、もう9時半過ぎてるし風呂入ってこようかと…。」


「そか。行ってらっしゃい。」


もくもく。もくもく。静かに食べている瑞貴の頭を撫でてまた俺はリビングに戻り風呂へ入った。

…なんか、この3日間波乱過ぎて…。何が気になってるかって、瑞貴のメンタルが心配なのだ。主に今日の出来事が原因で。俺は何もダメージを食らっていないから平気なのだが、瑞貴の受けたメンタルダメージが計り知れない。ユウトくんの父親と遭遇して本当に、本当に好き放題に言われまくって、あんなの元々頭の上に5トンくらいの岩が載っている状態なのにさらにその上から10トンくらいの巨大な岩を載せられたのと同じだ。


「っはーー、あの父親はあかんわ。あんな事言いまくって挙句の果てに慰謝料請求とか、自分の息子がなんて思うか想像出来ないのかねぇ…。俺なら恥ずかしくて親の顔叩いてでも止めるわ…。親は子供を選べないとか言うけど、子供こそ親は選べんのよな…。」


バシャッ、と湯船からお湯を掬って顔を洗い。そう、子供に親は選べないのだ。俺も自分の両親が両親である事を誰にも言いたくない側の人間である。まぁ俺のところは単に両親が極度の過干渉で、特に母親が俺と兄を溺愛していちいち様々な事に口を出して干渉して来るというだけだから、妹のあきら以外には無害なのだが。ただそれがもう気持ちが悪くて耐えきれなくなって一人暮らしを開始したわけだが、それは一旦置いておくとして。


とりあえず瑞貴は三日以内に3億を揃えてあの親にまた会いに行かなくてはならないので、その時に何を言われるかだ。今日激しく打ちのめされて3日以内にまた同じような事を言われたら瑞貴のメンタルがさらにガタガタになってしまう。それを終わらせるための3億という金だとして、俺は全く納得がいっていない。でもそういう事で瑞貴がいいと言いまとまりそうなので俺がとやかく言える事ではないのだが。

ダラダラとスッキリしない頭でずっと考えていたら少し逆上せてしまって上がってリビングで水を飲んで寝室に向かった。

眠っているかもしれないので静かにドアを開けて入ったら、予想通りちゃんと静かに眠ってくれていて少しホッとした。丁寧に重ねて置いてくれていた食器を音を立てないようにトレーに載せて再びリビングに戻って後片付けをして。俺は適当に食べればいいので食パンを焼いてバタートーストを2枚食べて夕飯は済ませた。


「さて、寝るか。」


スマホをソファに持ってきて充電コードに繋いでおき、朝8時にセットして部屋の照明を落として横になってから数分後、寝落ちていた。



第12話 完

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