ゲームブック(二十八頁目)
じめっとした空間に、プレイヤーが整列していく。高い天井のおかげで、圧迫感は感じないが、フル装備でバックパックを背負った者がこれだけ集まると威圧感がある。
ずらりと等間隔に並んだ、全十班、総勢五十余人の大部隊。その前に博士が立った。
「諸君!今日は良く集まってくれた。遂に我々は来るべき時を迎えたのだ!」
博士の話に、皆が耳を傾ける。いやノブはポケットから水筒を取り出して、何か飲んでいるが。彼は頭がおかしいのでノーカウントである。余談だが、耳くらいなら千切れても賢者の魔法で傷跡も残さず治せるらしい。
「この迷宮を突破し、自らのあるべき場所を取り戻すのだ。不当に奪われた故郷を、自らの手で取り戻せ!!」
うおお!と歓声が上がった。
ちらりと隣を見ると、鎧武者が居た。中身は山本さんなんだが、兜の奥の顔は全く見えない。今日の為にローンで買ったそうだ。
クリアしたらローンってどうなるんだろう。
妙な事を考えていると、博士が締めの挨拶に入ったようだ。
「目標は、第六階層玉座の間。作戦開始!」
その言葉と共に、全部隊が行動を開始した。
……
地下四階。
驚いた事に、迷宮内にも関わらず大きな木が乱立し、林を形成している。
地下四階ともなれば、強力な魔物も出現する危険なエリアだ。移動と行っても、全員でダラダラ歩くわけではない、移動の仕方も博士に決められた。
二つの班が協力し合い、交互に移動する方式である。片方の班が警戒をする間に、もう片方の班が移動。それを交互に繰り返して進んでいくのだ。
偵察者が感知できる範囲は、移動しない警戒状態ならば半径300m〜500mほどある。その偵察者の警戒範囲を活かして、班ごとに交互移動をする事で、敵の位置や情報を確実に得るのだ。
「止まれ、二時の方向400m先、敵」
ノブが突然ぴたりと動きを止め、手で合図する。全員がその場にしゃがみ込んだ。腰ほどもある雑草達が俺たちの身体を隠してくれる。そして、そのまま目を閉じるノブ。
「敵……おそらくゴーレムタイプ」
ぼそぼそと小声で、誰にとも無く一人で喋る。その表情は真剣そのものだ。
「……うん、了解」
「え、何?」
「九班、十班で同時に狙撃の命令だ」
俺たちには何も聞こえないが、ノブ達偵察者には他の偵察者達の声が聞こえている。もはや通信機の代わりになっている。
「了解」
そう言って、荷物を地面に下ろし俺とミカさんが小銃を構えた。俺たち十班は、魔法小銃をこの二人で使うことにしている。というより作動に僅かながらMPが必要なので、MPが0のノブや山本さんは扱う事が出来ないのだ。さやに銃を持たせるのは、やばそうなので消去法である。
指示通りスコープを覗くと、のそのそ動く黒い影を見つけた。向こうは全くこちらに気づく気配は無い。
「捉えた」
小さくそう言って、照準を魔物の中心に合わせた。ミカさんも見つけたようで、同じ方向に銃口を向けている。
「待て、合図で同時に狙撃する」
そのまま、待つ。案外ずっと同じポーズで固まるのは辛い。
「撃て」
パァ!パァン!!乾いた音が四つ重なって響く。どんっと一瞬遅れて、遠くで爆発した音が聞こえた。
「命中。目標破壊確認。戦闘終了」
ノブが400m先に向けた視線を動かさずに、そのままの体勢でそう言った。
「ぷはぁー、疲れた」
戦闘終了の声を聞いた途端に、さやがへたり込む。いや、あなたは何もしてないだろう。
「静かに緊張してるの疲れるんだって。ホントに」
無言の指摘だったが、表情に出ていたのか。
しかし、この銃は最高だ。あんなに苦労したゴーレム級の敵が、発見される前に倒せるとは。そしてこの移動法。これなら殆ど消耗せずに進んで行けそうだ!博士かしこい!
ズズズズ……
剣と魔法の世界で、空気を読まずに飛び道具を使うのはやめろ。
……
お、効いてる効いてる。
このまま無傷でクリアしてやるからな。クソダンジョン覚悟しやがれ。
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