ゲームブック(二十六頁目)

「ああ、つい話し込んでしまった。今日来てもらったのは武器の事だけではなく、編成の事についての了解も得たくてね」


そう言って、銃を片付けた。編成とはパーティの編成の事だろうか。


「パーティ構成についてですか?」

「察しが良いな、その通りだ。今回の攻略部隊は諸君らを入れて五十余名いる、連携が必要だ」


五十人、その人数で狭いダンジョン内をぞろぞろ歩いて行くわけか。確かに迷子が出そうだ。そして、つまり今のパーティのまま冒険は出来ないという事だろうか。


「職業毎に分かれたりするんですか?」

「必要があればね、でもダンジョン内を歩いて進むのにそんな隊形は取らない」


よく考えてみたまえ、と続ける。例えば五十人が二列縦隊で、職業ごとに固まって歩いて行くとどうなる。

そら前から敵が来た、前方の戦士が抑えて魔法使いの援護を待つ。魔法使いはどこだ?戦列の一番後ろだ、前の賢者が邪魔だ前に詰めろ、前には敵がいる、人が邪魔だ。後ろからも来た、さあ誰が抑えるんだ。


「大混乱だよ、愚の骨頂」


ちらっと後ろを見る。うなずいている山本さんと、完全に話を聞いていない残りの二人。

博士はいそいそと、迷彩服の上の白衣を脱いでいる。結構カタチ重視なんだな。


「お互いに干渉する事なく、それぞれの火力を十分に発揮できる形を取る。五人ないしは六人で一つの完成した戦闘単位、班を作りそれを十班」


班なんて呼んでいるが、諸君らの考えているパーティが十個集まって、相互に協力して行動すると言うことだ。と続けた。


「つまり、俺たちのパーティはそのまま、という事ですか?」

「いや、一名追加させて貰おうと思っている。詳しい班の構成だが……」


偵察者一名。

魔法使い一名。

賢者一名。

前衛が二名から三名。

合計五名、ないし六名で一班とする。

また各班には、魔法小銃が二挺貸与される。

という事である。


「つまり、パーティに足りていないのは」

「賢者か」

「賢者だね」


突如ノブとさやが話に入って来た。聞いていないと思ったが、ちゃんと理解はしていたらしい。


「そうだ。それで今回、賢者を連れて来たので、諸君らの班に入れて貰いたい」


おおっと、誰ともなく喜びの声が上がった。賢者は以前溜まり場に勧誘に行ったが、断られた経験がある。およそノブの元カノとのイザコザのせいで。

それで、回復手段が俺たちパーティのネックになっていたんだが。ここに来て博士が斡旋してくれるとは、渡りに船である。


「それは是非お願いします!」

「そうか、良かった。では呼ぶよ」


そう言って、テントに戻って一人の人間を連れて来た。それは明るい茶色でショートボブの女の子。二十代前半だろうか、気の強そうな感じである。白と青のローブを纏って、ゆっくりと近づいて来た。


「……あ」

「あれって」


俺とさやが同時に気がついた、現れた賢者は。


「うわあ、何であんたが出てくるかなぁ」


そう現れた賢者は、ノブの元カノだった。嫌悪感を隠そうともせず、眉をひそめて俺たちを睨む。ノブは肩をすくめて、そう言うなよなんて話しかけている。


「知り合いだったか、良かったな」

「ええ、まぁ。良くはないけどね」

「おいおい、仲良くしようぜ。ミカちゃん」


ふん、と鼻であしらわれた。

問題があるのか?と博士。


「まぁ、博士の頼みだから。仲良くできるかどうかはわからないけど。パーティには参加するわ」


なら問題ないな、そう言って博士は納得したようだ。


「私はミカ。知っての通り賢者でレベルは12。短い間だと思うけど、よろしくね」

「あ、ユウです。パーティのリーダーです。よろしくお願いします」


ぐっと握手をする、白く柔らかい手だった。


「あっ、クラスとレベルはー……」


そう言いかけると、彼女はそれを手で制した。


「必要ないわ、私見えてるから」


瞳が緑色にうっすらと光っている。

何が起こったのかと思っていると、補足が入った。ミカさんの固有のスキルで、俺たちのレベルやスキルが見通せるとの事だ。

彼女はノブ以外の全員と握手をする。俺たちは新しいパーティメンバーを迎えたのだった。

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