ゲームブック(二十四頁目)

大きなテーブルを囲んで向こう側に、ガリオスと博士が腕を組んで座っている。

博士とは初対面だが、丸眼鏡に迷彩服の異様な出で立ちだ。一方は鎧、一方は迷彩服。


違和感しかない。


「ちょっと椅子低いな。いや机が高いのか?」


そう言って机の下を確認する博士。

長身のガリオスと並んで、この男は小柄なのがより強調されている。


「うん、まぁそれは良いとして。四階まで楽々ショートカットと言うのは本当なのか」

「ああ、先に説明した通りだ」


黒い鍵を手で弄びながらノブが答えた。俺たちの要求はこうだ、地下四階までの近道を案内するから次の遠征に連れて行って欲しい。


「で、あれば。断る理由は無いかな」

「うむ。丁度、偵察班が地下六階に玉座を見つけたところだ。ダンジョンマスターが居るのかもしれない」

「ダンジョンマスター!?最下層が六階と言う事ですか?」


食い気味に尋ねると、その可能性がある、と返って来た。

しかし攻略班のいつものルートは、行程が長すぎる。日数が増えると食料や物資の運搬が難しくなるから、遠征となると大きな課題だったのだ。

奇しくもそんな折に丁度俺たちがショーカットを見つけて来たのだ。


「それで。攻略班に参加すると言う事は、ダンジョン内では全面的に俺の指揮に従って貰う事になるが」


それは良いんだな?と身を乗り出した博士に念を押された。

ノブと俺の目を交互に見る。さやと山本さんはイマイチ話に入って来れていない。黙ってノブは俺の方を向いた。


「わかっています」


覚悟を決めて頷いた。


「で、あれば」


そう言って、博士は右手を伸ばした。グッと力強く握手をする。交渉成立だ。

今度の遠征に、攻略組として参加できる。パーティごと彼等の指揮下に入ると言う条件付きだが。


「ところで君達はいくら現金を持っている?」


レベルでも無く、スキルでも無く。博士の俺たちパーティへの質問、第一声はそれだった。


「遠征には金がかかる」


食料、武器、燃料。ただ一週間野営するだけでも大変なのに、魔物と戦いながらの旅となるのだ。

まずは人数分の物資を買い集めるように指示を受けた。



……



「それで、俺たちは買い出しに来ている訳だが」

「誰に向かって喋ってるの」

「ちょっと酒買って来る」

「買い出しと言うのも、楽しいものですな」


はじめてのお使いだ。メモ用紙を見ながら、北区でお買い物である。

大きな市場は活気があり、そこに働く人々は忙しそうに動き回っている。それを見ながら歩いているだけで、元気を分け与えられている感じがする。


「えーっと、必要なのは。リュックに一週間分の食料と天幕。シャベル、シーツ……飯盒はんごう  にロープと」

飯盒炊爨はんごうすいさん  ですか、火が使えるんですな」

「天幕って何?」

「ん、ちょっと待って。一週間分ってどれくらいだ」


それぞれが好きな事を言っている、収拾がつかない。ひとまず足並みを揃えなければ。


「ちょっと、まず食料を買おう。一週間分。持ち歩けて、日持ちする物を選ぶんだ」


わかった、と頷く面々。


「ケーキは無理だよね?」

「うん。味も大切だけど、日持ちしてかさばらないのを考えよう。リュックに入れて自分で持つんだよ」

「ふむ。戦場ゆえ、火を使わずに食べれる物もあった方が良いかもしれませんね。日本古来の糧食、乾飯かれいい などはどうですか」


ずいっと山本さんが突如入って来た。彼は顔に似合わず、お料理大好き将軍なのである。


「カレイイって?」

「炊いた飯をカラカラに乾かした物で、歴史は古く、武士も携帯食として食していたそうです」


へぇーと俺とさやが感心する。ノブは居ない、酒を買いに出るといつ帰ってくるのかわからない。


「それは美味しいの?」

「いや、まぁ。美味いと言うよりは、保存が効くのが優れておるのですよ」


乾燥したご飯ですよ、水や湯で戻して食べます。と付け加える。


「あんまり食べたく無いなぁ、一週間もそんなの食べるのかぁ。パンとかじゃダメなの?」

「パンも良いでしょうが、一週間分持って行こうと思ったら、想像しているのと違うパンになると思いますよ」


ここは私が、四人分で一週間の食料を選びましょう。と山本さんが提案する。渡りに船である。


「お願いします」

「はい、お任せあれ。まずは塩から仕入れましょう」


山本さんは、ウキウキで先頭切って歩き始める。肉や魚なども手に取っているが大丈夫なのか。

いや、仲間を信じよう。そう思い直し財布を握りしめて後をついて行った。

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