ゲームブック(二十一頁目)

「おっ!結構落ちてる!」


下を向いて金貨を拾っていく。召喚された騎士が消滅された後に残ったのは、元のゴブリンの陣地と、彼等の死んだ後の遺品たちだ。

ぴかりと光る金貨を見ると、嬉しくなってくる。痛む足を庇って、片足でぴょんぴょん跳ねながらの回収だ。


「300……400Gはある?」


「もっとあるだろ。500位あるんじゃないか」


「やった!」


「これはちょっとしたものですね」


さすが地下三階の魔物の群れである、最高の成果だ。やっぱり現金が一番。


「ちょちょっと!宝箱もあるじゃん!」


「うおっ!しかも二つもある」


「あー……」


跳び上るほど喜んでいるさやとは対照的にテンションが低いのはノブである。濁った目をしている。どうせ酒が無いから出来ないとか言うんだろう。


「なぁ、手が震えてさ……」


「大丈夫、ノブなら出来るさ!」


間髪入れず、ノブの肩を掴んで宝箱の前に誘導する。キラッキラの瞳で見つめるさやのプレッシャーは、有無を言わせぬものである。


「あのさ。これ、爆弾の罠がかかってるんだが」


「うん」


「じゃあ離れてるからよろしくね」


「おい、なんか前回と対応違わないか!?」


以前の解錠成功に気を良くした俺たちは、目配せをして、ノブに宝箱を押し付ける事にしたのだ。

圧力をかける俺たちに対して、何が起こっているのかイマイチ把握していない山本さんが笑顔を見せながらも困っている。しばらくするとピンと来たのか、懐から四角い物を取り出した。


「ああ、これならありますよ」


竜ころしと書いている180mlの紙パックだ。

きゅぴんとノブの目が光った。まるで台所で見つける黒いヤツのような動きで、素早く山本さんに近づきソレを受け取った。


「30秒待ってくれ」


ノブがにっこりと不思議な笑顔でこちらを振り向く。目を閉じて上を向き30秒待つと、そこにはシャッキリとした顔のノブが立っていた。


「よっしゃ、やるぞおー!ほら離れて!」


俄然やる気になったノブが、俺たちに離れるように言った。豹変振りがちょっと怖くなった俺はノブに伝える。


「なあ、ノブ……ちょっとお酒控えた方が良いんじゃないか」


「ん?酒?ああ、いつでも辞めれるよ!そんな事より、ほら離れて!」


そうか、いつでも辞めれるんだ。依存しているのかと心配して損したよ。それ以上は何も言わず、黙って離れた。


彼はゲームブックを取り出し、カラカラとダイスを振る。それを見て、久しぶりだと思った。最近ここがゲームの世界だと言う事を忘れてしまう時がある、危ない危ない。

そんな事を考えていると、カチリと音が聞こえた。どうやら成功したようだ。


「なんぞこれ」


出てきたのは小さな黒い鍵だ。用途は分からない。そのままノブが懐に仕舞い、もう一つの宝箱に向かった。その時。


「やばい伏せろっ!」


近づいただけで、突如宝箱が何倍にも膨れ上がり爆発した!どぉんという轟音と共に、熱風と衝撃波が全員を襲う。

間一髪、近くのくぼみに伏せた俺たちは、それをやり過ごす事ができた。


パラパラと落ちてくる残骸を手で払いながら、頭を上げて状況を確認する。


「みんな、大丈夫か!?」


「ああ」

「なんとか無事ですよ」


遅れて聴こえてくる甲高い悲鳴。


「あああああああああっー!!」


「何!どうした!?さや無事か?」


皆がそちらに注目する。そこにはトレードマークの魔法使いの帽子を胸に抱えたさやが座り込んでいる。


「どうしました?」


「帽子が……」


そう、その帽子が穴だらけになっていた。飛び散る破片で穴が空いたのだろう。これが身体に直撃していたらと思うとゾッとする。


「ああ、体に当たらなくて良かった」


そう言って、手を取り立ち上がらせると、急に負傷していない方の足を踏まれた。


「痛っ!ちょっ!シャレにならないって!」


倒れかけて山本さんに支えて貰う。


「良かったじゃないよ!帽子がこんな姿に!」


どうやら随分大切な帽子のようだ。彼女の思考は分からない。


「怪我はないな。帽子はもう街に帰ったらユウに新しい良いヤツ買って貰いな」


ノブはそう言うと、宝箱が爆発した辺りを調べに行った。


「……買ってくれる?」


「良いけど、暴れるのはもう辞めてくれ」


うん、と素直に頷いた。幼いと言うか何というか。わがまま放題だなこの人は。


ズズズズ……


ぞくりとしたものが背中に走った。ゲームブックが呼んでいるらしい。懐から取り出して確認する。



……



狡猾な魔物の罠を切り抜けた君達は、新しい二つの道を発見する。まだ見ぬ先の世界に足を踏み入れても良いし、休息を求めて街を目指しても良い。


十分な経験点を得た君はレベルアップする事ができた。レベルが6に上昇する。

そして新たなスキル「右手に剣を左手に剣を」を習得した。



……



なるほどな、右が剣で……左が剣ね。両手に剣じゃあないか?何の意味があると言うのか。

ふと顔を上げて周りを見ると、皆もそれぞれ自分のゲームブックを、しかめっ面で眺めている。まぁそんなものか、そうして妙に納得した。


「おい、扉があるぞ」


ノブが彼等の陣地の奥に、黒い鉄格子のような扉を見つけた。その隣には下り階段がある。鉄格子には、先見つけた黒い鍵がぴたりと当てはまるようである。

下り階段は地下4階に繋がっているのだろうか。


全員の視線がこちらに集中した。

さて、扉の先に進むか、下り階段を降りるか。

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